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OBR1 −変化−


073 2011年10月02日07時00分 


<桐生青磁> 


「悩んでるなー、青少年」
 鬼塚千尋おにつか・ちひろ プログラム担当教官 がくっくと含み笑いをする。
 スーツ姿だが、あごひげに、染色の入ったやや長い髪、イヤーカフス、そして何よりもどこか飄々とした佇まいからから、自由人のように見える。
「野崎一也ですか」
 桐生青磁きりゅう・せいじ 分析官 は顔を上げ、鬼塚を見やる。
「恋愛に悩むなんて、まっとうに15歳すぎるなー」
 間延びした、どこか馬鹿にしたような、からかうような口調。
「……何考えてるんだとか言われてましたよ」
「ああ、面白いやつだなぁ。プログラムの生き死にとは関係のないところにひっかかったり、悩んだり」
 どうやら野崎一也を気に入ったようだ。
 ……何考えてるんだか。
 半ばあきれながら、野崎一也と同じ台詞を桐生自身の感想として頭に浮かべる。

 角島つのじま 近海に停泊している哨戒艦艇しょうかいかんていあわじ』。
 この船に今回のプログラム作戦本部が敷かれている。
 ふわふわと床が揺れているような感覚が常に
あり、居心地はあまり良くない。
 ぐるりと見渡すと、大型モニターや数台のパソコン、サーバなどが設置され、雑然としている。
 護衛官、コンピューター専門の技術官、事務官、通信官など、スタッフも多い。
 桐生は陸軍の技術官で、27歳。プログラム関連任務には技術スタッフとして何度か就いたことがあるが、分析官としての職務は今回が初めてだった。
 
 鬼塚は陸軍出向中の役人だ。籍は国防省にある。
 担当教官であると同時に、このプログラムの情報分析部の部隊長も兼ねていた。
 もともと情報技術畑の人間だったということで、技術官の桐生から見ても、彼の知識・技術は申し分なかった。
 これまでにも数回、プログラム担当官の職務についたことがあるようだ。
 年齢は聞いていないが、30前後だろう。
 鬼塚はいわゆるキャリアではない。仕事はできるようだが、他の担当教官の年齢を考えれば、異例な若さだ。
 となると、後ろ盾の存在が見えてくる。
 野崎一也と羽村京子の音声記録によると、丹後議員の後援会事務所に、議員と鬼塚教官が写った写真が飾られていたようだ。
 先ほども議員と気易い口調で電話をしていた。
 鬼塚のバックにいるのは、丹後議員と考えて間違いないだろう。

 
 その担当教官は自身で淹れたコーヒーをすすり、「不味いな」と顔をしかめている。プログラム進行は極めて順調なので、単純にコーヒーの味について語っているようだ。
「めんどくさいからインスタントにしたんだ。駄目だな、やっぱ」
 少し前に鬼塚にコーヒーを出したが、ドリップバッグを使った。
 あのときは味についてコメントはなかった。インスタントと比べて多少なりとも味や香りが違うのだろうか。
 尋ねると、「ああ、大分変わるな。まぁ、豆を挽くところからするのが一番なんだが」ちっと舌を打つ。
 大東亜共和国は長く半鎖国政策を行っている。
 コーヒー豆輸出国の大部分は敵性国家の傘下だ。
 これまでは部分的に貿易が認められていたが、最近になって規制が強くなっていた。
 加工品はストックがあるようだが、純正豆は品薄になりはじめている。
「嗜好品の輸入規制ですか」
 国内産業を守る題目で行われている規制だ。
 桐生は政治や経済にさほど興味はないが、行き過ぎた規制や鎖国政策が経済危機の一因にもなっているのはよくわかる。
「馬鹿なことしてると思いますか?」
「時代に合わなくは、なってるんだろうな」
 体制側の人間としてはなかなかに危なっかしい会話だった。
 担当教官席と補佐官席は他のスタッフと離して設えられているとはいえ、誰に聞きとられるか分かったものではない。

「俺の淹れ方もまずかったんだろうが、泥みたいだ」
 鬼塚がコーヒーカップを脇によける。
「淹れ方で変わりますか?」
「ぜんぜん違うぞー。俺の知り合いに、若いが旨いコーヒーを淹れるやつがいる。今度紹介してやるよ」
「あ、ぜひ」
 それは私的な誘いだ。
 鬼塚に取り入ろうとしている桐生には、チャンスだった。
 掴みどころのない男ではあるが、鬼塚は有能だ。彼に追従すれば、今後何らかのメリットがあるとみていい。
 極めて打算的な考え。
 だが、これとは別に、鬼塚への好奇心もあった。鬼塚の言動には裏を感じ、興を引かれる。
 まぁ、単純に、鬼塚千尋という人間を気に入っているという心理もある。
 タイプが似ている、波長が合うとでもいうのだろうか、鬼塚も同様らしく、今回の補佐官任務は彼の指名だった。前回も鬼塚が教官を務めるプログラムで技術官をしたのだが、仕事ぶりや人柄を認めてくれたらしい。
 どうにも胡散臭いところのある鬼塚のこと、額面通り受け取ってよいか疑問だったが、桐生になんらかの利用価値を感じてくれたのであれば、それはそれでうまく使われるべきだろう。

  
 と、ここで、ぶるると何かが震える音がした。
 鬼塚がポケットから携帯電話を取り出す。長方形のメタリックなフォルム。スマートフォンの最新機種だった。
 携帯着信をバイブレーションモードにしていたのだろう。
 これを何気なく見やり、おやと眉を寄せる。
 普段鬼塚が使っている携帯電話は二つ折りだ。
 支給武器として配布している『質問権付き携帯電話』を使用した場合も、その携帯電話に繋がるようになっている。
 まぁ、二台所有していること自体はそれほど珍しくない。
 ここで、「二台持ってるんだよ」鬼塚がにやりと笑う。
 思考を読まれたのだ。
 苦虫をつぶしていると、「まぁ、目ざといのはいいことだ」今度は歯を見せて笑われた。
「そうですかね」
「……噂をすれば、だな」
「え?」
「さっきのコーヒーの彼からだ」
 液晶画面を見た鬼塚が言い、電話に出た。

 盗み聞くつもりはないが、席が近いので鬼塚の話している内容は筒抜けだ。
「……ああ、そーか。大分悪いのかー」
 丹後ももお議員のことだろうか。
 中央政府の大物政治家だが、内臓を悪くして京都の病院で入院加療中だ。数時間前には彼から鬼塚に電信もあった。
「……ありがとう。また何か分かったら、教えてくれ」
 やがて鬼塚が電話を切る。
「丹後議員ですか?」
 尋ねるが、「いや、違う」首を振られる。
「え?」
「かけてきたのは丹後が入院している病院からだが、さっきの話は久留米だ。久留米千歳ちとせ
「ああ。うちの親分じゃないですか。……もと、ですか」
 言いなおす。久留米千歳は、陸軍の最高幹部まで上り詰めた男だ。もと、というのは、大分前に隠居しているからだ。
「そういえば、あの人も倒れたんでしたっけ」
「大分危ないらしい。丹後も入院中だが、あっちは後100年は持ちそうだ」
 なぜか憎々しげに話し、「憎まれっ子世にはばかる、だな」皮肉に笑う。
「はぁ」



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桐生青磁 
陸軍所属の技術官。今回のプログラムでは分析官兼担当補佐官。鬼塚教官のプログラムは二度目。
鬼塚千尋
 
陸軍出向中の役人。角島の出身とのこと。