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OBR4 −ダンデライオン−  


081 2005年11月30日16時00分


<滝口朔>


 藪から飛び出し、 は「瀬戸!」声を上げる。
 ナイフが瀬戸晦の眼球を超え脳に達しているのは明らかだった。即死に近い状態だったろう。
 右手につけた腕時計が小さく振動する。
 兵士に支給された腕時計は特別製だ。表示板を操作すれば、作戦本部からの指示が見られるようになっている。おそらく、瀬戸晦の死亡情報が送られてきている。
 確認する間がないが、腕時計は先ほどから何度も振動していた。
 見ると、Cスポット前の広場には、瀬戸晦の華奢な体躯のほか、女子生徒が二人倒れていた。徳山愛梨に、桐神蓮子。彼女たちもおそらくリタイアだ。
 そして、そのそばに立つ名河内十太 のすらりとした長身。

 無言で十太と向かい合った。
 長くは続かず、十太がばっと姿勢を低くし、桐神蓮子からサブマシンガンをもぎ取る。
 そのまま、朔のほうへ駆けてくる。
 走りながら、流れるような動きで、サブマシンガンが構えられた。彼の足がとまり、銃口が火を噴いた。
 朔の右腕が跳ね上がる。被弾したのだ。
「ぐっ」
 短く切った悲鳴を上げ、ここでやっと、朔にしては遅い危険認識に至る。
 容易に弾幕を形成できるサブマシンガンはやっかいだ。有効射程距離は短いが反動が小さく、素人にも扱いやすい。
 すでに右上腕に一撃を受けた。
 朔も銃は所持しているが、利き腕が右だ。
 負傷した腕でうまく応戦する自信がなかった。

 踵を返し、ばっと走り出す。追うようにサブマシンガンの射撃音が続く。今度はどこにも被弾しなかったが、十太が明らかにやる気なのは分かった。
 朔は彼が水嶋望を殺すシーンを目撃している。ただ、その後遭遇したときは襲っては来なかった。しかし今は命を狙われている。
 また気が変わったのか。
 まぁ、それも長期プログラムだ。
 期間が長い分、各生徒のプログラムへの向きあいの変化も激しい。
 クヌギ、コナラ、ケヤキといった種々雑多の樹木が密集している雑木林を駆ける。
 落葉が敷き詰められた地面は傾斜と起伏があり、走りにくい。
 士官学校で鍛え抜かれた身体。プログラム中もトレーニングは欠かさないでいるので息切れはないが、呼吸は荒い。
 それは、恐怖からだろう。
 背後から銃声がし、さらに心拍が上がる。

 単純に、死にたくなかった。
 朔は物心がつく前に孤児院に送られている。
 両親が反政府運動に関わったという、自身にはどうしようもない理由による孤独、強制士官。
 その心情は、前向きと表現するには程遠く、諦めに近いものだったが、環境を天運として淡々と受け止め、少しでも生き延びられるよう努めてきた。
 そしてこのプログラム任務の話が来た。
 苛酷極まる任務、命を落とす危険性も高く、受命拒否が認められた。
 しかし、生きて帰れば強制士官制度履歴が抹消され、望めば退役もできる。
 自身が強制士官者であることを考えるとき、朔は鎖牢を思い浮かべる。四肢を鎖で縛られた自身の姿を
 ……生還すれば、縛り付ける鎖が解き放される。自由を、得られる。
 受命を決意したとき、プログラムへの恐怖と開放への淡い期待が、朔の体内を巡ったものだ。



 と、唐突に雑木林が開けた。木々の陰が消え、光があふれる。
 緩やかな坂の下に、壁のない天井と柱だけの建物が見える。
 敷地面積が広い。最初の説明に遭った製材所だろう。製材用の機械や台車があり、丸太や製材済みの角材が積み上げられている。
 併設されているプレハブ小屋は、宿舎か。
 振り返ると、木々の間に十太の姿が見えた。M360Dのグリップを握りなおし、一撃を見舞う。命中は元より期待していないが、威嚇にはなるだろう。
 
 坂を駆け下り、敷地内に飛び込む。
 朽ちた木と錆ついた金属の匂いがした。
 天井が非常に高い。通常の建物なら三階建てくらいの高さだ。
 数週間前、鎖島は地震に見舞われた。
 Aスポット裏のがけが崩れるなど、揺れは島内に爪痕を残したが、製材所も例外ではなかった。
 場所によっては機材が倒れ、集積されているはずの木材が崩れ落ちている。木材を束ねていたロープの腐食も進んでいたのだろう。
 まぁ、遮蔽物が多く、地面が平たいのはありがたい。
 
 身体が冷え、手先が小刻みに震える。喉がからからに乾いていた。 
 足をゆるめると同時、サブマシンガンの連弾に追われた。 
 左大腿部の肉を薄く掠め取られ、前のめりにつんのめった。積み上げられた木材が爆ぜ、木端が舞う。
 目前に、敷地内にしつらえられた事務室が見えた。二階層になっているようだ。
 たまらず、事務室に飛び込み、後ろ手で扉を閉めた。施錠する。
 机を動かし、扉をふさぐ。
 続く襲撃。木製の扉を貫通した銃弾が、白塗りの壁にめり込んでいく。
 キャビネットのガラスが割れ、散った。

 周囲を見渡し、血の気が引いた。
 窓がなく、裏口もない。 
 鍵は撃ち抜かれればお終いだ。バリケードもこの程度ではたいした時間稼ぎにならない。
 自ら檻に入ったようなものだ。
 望みは二階だった。窓があれば、そこから出られる。
 二階へと続く内階段を這うようにして登る。二階は倉庫室になっていた。鍵がなく、施錠することができない。
 室内の壁は大半が本棚が占めており、棚には資料や書類ファイルが詰められている。
 残る一面は腰高の窓だ。ほっと胸をなでおろす。
 本棚は重すぎて動かせなかった。
 鍛え抜かれた朔だが、さすがに息が上がった。

 階下で銃撃音がし、次いで、何か物がずれるような音がした。
 十太が侵入したのだ。
 喉から恐怖がこぼれそうになり、両手でふさぐ。
 撃たれた脚からだらだらと血が流れていた。これではもう満足には走れない。
 一階にいないことはすぐに把握されたのだろう、ぎっぎという階段板を踏みしめる十太の足音が続く。
 窓を解錠し、先ほど上った階段の段数を思い返す。踊り場を含めて、30段ほど。
 これを逆算し、彼の現在地をはかる。
 もう間がない。
 意を決し、朔は窓から飛び降りる。
 たかが二階分だ。大した高さではなかったが、床面が固く、足がじんと痺れた。
 左大腿部の傷が痛み、ぐううと呻く。しかし、動かなくてはいけない。
 すぐそば、積み重ねられた木材の山に身を隠し、息を整える。
 握りしめていたM360Dもすっかり血に濡れていた。グリップについた血をシャツで拭う。
 十太が二階の窓から顔を出すのを待って、M360Dの銃弾を二発撃ち込んだ。朔の利き腕は右だ。負傷し力の入らない腕ではしっかり保持できず、弾丸は明後日の方向へと消えた。
 
 右腕を左手で支え、左足を引きずるようにして、進む。
 腕も足も出血は止まらず、朱に染まっていた。
 シャツを切り裂き、右腕と左脚の付け根を縛る。
 止血帯法は壊死を起こす危険性があり、指先での直接圧迫法のほうが望ましいが、そんなことをしていたら逃げられない。

 この辺りは、木材の集積スペースなのだろう。木材を積み重ねた山がいくつも並んでいた。影となり、うす暗い。
 地震の影響か、一部が崩れており、バリケードのようになっていた。
 自然にできたバリケードの隙間を抜ける。
 身を隠しやすいのはいいが、出血している朔には無駄なあがきだった。
 血糊の痕を追われてしまう。
 ……ああ、そうか。
 ここで、ふと閃く。
 どう足掻いても、痕はつけられる。それなら……。
 止血帯をほどく。
 どくどくと流れる血。その血を地面や木材に付着させながら、進む。



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滝口朔
記録撮影のために潜入している兵士の一人。任務を成功による強制士官免除が望み。孤児院育ち。