OBR4 −ダンデライオン−  


080 2005年11月30日15時45分


<瀬戸晦>


「あああああっ」
 飛びかかってきたのは、徳山愛梨だった。
 いきなりのことで払いのけることもできず、瀬戸晦 はそのまま彼女と一緒に地面に倒れこんだ。桐神蓮子同様、掛けていた眼鏡はふきとんでしまった。
 仰向けの体勢、空を仰ぐ。
 愛梨が馬乗りになってきており、視界は狭い。
 できれば手にかけたくなかったが、これは仕方がない。
 彼女にM360Dを向け、引き金に二度力を込めた。
 このリボルバーは、軍の配備銃の一つだ。
 兵士の晦には使い慣れた代物だった。
 果たして、二発目が彼女の心臓のあたりを撃ち抜く。

 ばっと血を吐いた後、愛梨の身体がぐらんと大きく揺れ、やがて仰け反った。
 そのまま瞳が閉じられ、横倒しになる。
 これにより、狭まっていた視野が広がった。
 青く澄み渡った、雲ひとつない空。
 ほっと息をついたのもつかの間、目前が再び陰る。
「これって、世話してやってた礼だと、思う?」
 名河内十太だった。
 晦の傍に膝をつき、サバイバルナイフを振り上げている。
 その刃は、桐神蓮子の血ですでに赤く染まっていた。
 矯正を失った視力でも、刃の動きに合わせ、青空に赤い飛沫が起こったことは分かった。

 蓮子は、血の海の中、うつぶせに倒れていた。さきほどは顔だけを上げた状態だったが、完全にうっ伏している。こと切れたのか。
 策謀家にしては呆気ない最期だが、そんなものなのかもしれない。
 所詮人は人。獣には勝てない。
 これは、晦自身にも言えることだった。
 叩きつけられるように、右の眼を刺される。刃先はすぐに眼球の先、脳に届いた。何かの反射だろうか、びくんっと身体が一度跳ねる。
「恥ずかしいから、誰にも言うなよ」
 つい先日の会話を踏まえた十太の台詞が耳に流れ込む。

 そして、無事だった左側の視界に、人影を捉えた。
 長身の少年
 滝口朔だった。たった今、この広場に到着したのだろう、雑木林から飛び出してくる。
 ……また、流されてる。
 自分を助けようとしてくれているのか、争いを止めようとしているのか。
 どちらにしても、最後の兵士は感情に流されている。かつての彼ならば、考えられないことだ。

 ……馬鹿だなぁ。
 苦笑いの思考を最後に、意識の幕が降りる。その瞬間まで、隻眼せきがんは朔の姿を映していた。



−桐神蓮子・徳山愛梨・瀬戸晦死亡 04/28−


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瀬戸晦
潜入している兵士の一人。肉体派ではないが、分析能力に優れる。任務を成功させ、強制士官歴を抹消し、分析官になるのが望み。Bスポットの作為の企画も行った。