<瀬戸晦>
「あああああっ」
飛びかかってきたのは、徳山愛梨だった。
いきなりのことで払いのけることもできず、瀬戸晦
はそのまま彼女と一緒に地面に倒れこんだ。桐神蓮子同様、掛けていた眼鏡はふきとんでしまった。
仰向けの体勢、空を仰ぐ。
愛梨が馬乗りになってきており、視界は狭い。
できれば手にかけたくなかったが、これは仕方がない。
彼女にM360Dを向け、引き金に二度力を込めた。
このリボルバーは、軍の配備銃の一つだ。
兵士の晦には使い慣れた代物だった。
果たして、二発目が彼女の心臓のあたりを撃ち抜く。
ばっと血を吐いた後、愛梨の身体がぐらんと大きく揺れ、やがて仰け反った。
そのまま瞳が閉じられ、横倒しになる。
これにより、狭まっていた視野が広がった。
青く澄み渡った、雲ひとつない空。
ほっと息をついたのもつかの間、目前が再び陰る。
「これって、世話してやってた礼だと、思う?」
名河内十太だった。
晦の傍に膝をつき、サバイバルナイフを振り上げている。
その刃は、桐神蓮子の血ですでに赤く染まっていた。
矯正を失った視力でも、刃の動きに合わせ、青空に赤い飛沫が起こったことは分かった。
蓮子は、血の海の中、うつぶせに倒れていた。さきほどは顔だけを上げた状態だったが、完全にうっ伏している。こと切れたのか。
策謀家にしては呆気ない最期だが、そんなものなのかもしれない。
所詮人は人。獣には勝てない。
これは、晦自身にも言えることだった。
叩きつけられるように、右の眼を刺される。刃先はすぐに眼球の先、脳に届いた。何かの反射だろうか、びくんっと身体が一度跳ねる。
「恥ずかしいから、誰にも言うなよ」
つい先日の会話を踏まえた十太の台詞が耳に流れ込む。
そして、無事だった左側の視界に、人影を捉えた。
長身の少年。
滝口朔だった。たった今、この広場に到着したのだろう、雑木林から飛び出してくる。
……また、流されてる。
自分を助けようとしてくれているのか、争いを止めようとしているのか。
どちらにしても、最後の兵士は感情に流されている。かつての彼ならば、考えられないことだ。
……馬鹿だなぁ。
苦笑いの思考を最後に、意識の幕が降りる。その瞬間まで、隻眼は朔の姿を映していた。
−桐神蓮子・徳山愛梨・瀬戸晦死亡 04/28−
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