<滝口朔>
クジで決まった順番は、大河が1番で朔が4番だった。二人組みとしてはまずまずの位置といえよう。
狙おうと相談で決めていた物資もそれなりに手にいることができた。
まぁ重要度の高い物資は、もともと複数組用意されていたので入手は容易だったのだが。
缶詰などの保存食、衣類、ブランケット、塩の錠剤、水の浄化剤、固形燃料、ライター、やかんや飯ごう、小さなフライパンなど……。
また、皆から注目を集めたものに、『サバイバルハンドブック』があった。
サバイバル術を簡単にまとめた書籍だ。
どの程度役に立つか分からなかったが、一応獲得しておく。
ほかには釣竿と釣り針を希望した。
地図によると鎖島には大小の池と、海に注ぐ川があるようだった。
また、当然のことながら周辺は海だ。
魚は重要な食料となるだろう。
野ウサギなど野生動物を捕るためのワイヤーを使ったくくり罠もあったが、これは凪下南美らの女子グループに先に落手されてしまった。
電池も入手できた。初期物資に懐中電灯があるので、特に不自然ではなく、目も引かれなかったようだ。
瀬戸晦も電池を獲得していた。
鈴木弦は、電池を希望しなかった。
楽天的な彼のことだ、定期の物資開放で後からでも入手できると高をくくっているだろう。
武器や刃物の類にはみな及び腰だったが、次第に希望するようになった。
包丁、鎌、鉈、刀、拳銃……。
拳銃は複数あったが全て同じ種類、口径だった。二人で拳銃一丁と鎌、包丁を入手しておく。
銃は小型リボルバーだった。
M360D。軍の配備銃の一つだ。
携帯性を重視しているため、装弾数が一般的なリボルバー銃の6発より少ない5発。軽量なわりに射撃時のブレが少なく命中率が高い。銃身にクロムメッキが施され、耐久性も高い逸品だ。
「僕、これもらうネ」
順番が来た碓氷ヒロが音楽プレイヤーを希望した。初の娯楽品希望にほかの生徒たちの目が集まる。
「人生に音楽は必要だヨ」
冗談めかしてヒロが答える。
どこか鈴木弦を思わせる気楽な台詞だ。
碓氷ヒロのことは、よくしらなかった。こういうキャラクターだったんだな、と朔は苦笑する。
「あ、じゃあ俺は陸上マガジン」
次の順だった大河がかねてからの希望品を獲得する。
これで雰囲気が変わった。
みな明るい顔になり、娯楽品を入手していった。
朔も文庫本を手に入れた。
タイトルは『ダンデライオン』。
タンポポの意味だ。聞いたこともない作品だったが、内容を知らないほうが読む楽しみが増えると考えることにした。
終盤に植物の種も希望してみた。
「育つもんなの?」
大河に耳打ちされる。
「まぁ無理だろうな。炒れば食糧になるだろう」
「ああ、種って栄養あるっていうものね」
実際肥料も何もないのに育つものではないだろう。また、同じ場所にずっとキャンプを張れるとは思えなかった。
それでも希望したのは、目ぼしい物資がすでになくなってしまっていたからだ。
あと、ひとつ。種は複数の種類がセットになっていたのだが、その中にタンポポの種もあったからだった。
先ほど入手した文庫本のタイトルと併せて単純に気になったのだ。
まぁ、大河に話した通り、炒れば食糧になる。
*
「じゃぁ、気をつけて」
ウッドデッキの上で、大河がみなに声をかける。
時刻はすでに21時になっていた。3時間後にはこのあたりは禁止エリアに指定される。移動の必要があった。
朔以外の兵士、瀬戸晦は朔のほうは見ずに出て行ったが、鈴木弦はひらひらと手を振った。
付き合いのあった凪下南美のグループに入るのかと思っていたが、とりあえず一人で行動するようだ。
まぁ、弦なら後からでもほかの生徒と合流できるだろう。
既に日は落ちていた。
星と月の明かりが、あたりをほの暗くしている。左手には小山が迫ってきており、右手は林になっていた。鎖島には二つの山があり、迫る陰は北側の山だった。
薄く潮の香りがし、ここが島であったことを思い出した。
遭遇を避けたかったので、ほかの生徒たちよりも遅れて出発した。
「さあ、行こう」
「怖いね……」
大河が恐る恐る足を踏み出す。
高木低木が入り混じった雑木林の中、下生えを踏みしめながら歩く。
とりあえずはこのエリアから出なければいけない。
そのまま15分ほど歩いていただろうか、朔はふと立ち止まった。
真後ろを歩いていた大河が「わっ」ぶつかってくる。
「どしたの?」
言った瞬間、大河もまた「血の匂い……」異臭に気づく。
よく見ると、茂みに血が散っていた。ブナの大木の幹にも刷毛で塗ったような血糊が着いている。
見やった先には……。
「……早すぎる」
思わず口を付いて出てきた台詞だった。
……確かにいつかは誰かがプログラムに乗るとは考えていた。
しかし、ここまで早い段階とは思ってもみなかった。
開始後まだ数時間しか経っていないのだ。
見やった先、雑木林の中を抜ける林道に血まみれで倒れていたのは、つい先ほどまで一緒にいた崎本透留だった。
皆の信頼を得ていたクラス委員長。
先ほどはスポットの説明用紙を代表して読み上げていた。
その彼が生きているのか死んでいるのかは、判断つかなかった。
そして、「鈴木……」鈴木弦の姿があった。透留のそばに、膝を折りしゃがんでいる。横向きのため、その表情はよく見えない。
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