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OBR4 −ダンデライオン−  


055 2005年11月07日12時00分


<中村大河>


「あれで……良かったのかな」
 後方から高木航平の沈んだ声がした。
 ……まだ言ってる。
 大河はうんざりしながら「ほんと、ロッカーサイズなんだね」平坦に言った。
「ああ、瀬戸とかが言ってた通りだな」朔が頷く。
 徳山愛梨を洞穴に放置してから数時間。夜は明け、あたりは光で満ちている。
 大河らは、東の丘の頂上にあるCスポットに来ていた。
 雑木林の中、テニスコートほどの開けた空間。
 その一角にそびえる岩壁を背にした形で建てられている。

 このスポットについては、数人のクラスメイトから情報を得ていたが、実際に見てみると他のスポットとの違いに惑う。
 他の3スポットはそれぞれロッジ風の建物で雨風をしのげたし、Bスポットにいたってはシャワーやベッドなど、快適に過ごせる設備があった。
 比べて、Cスポットは住居としての機能は全くない。
 四角い箱を積み重ねた形状。
 箱の数は、横6×縦5の30個。
 Cスポットは、2〜4日に一度のペースで自動開放されるとのことだ。このプログラムの期間は三ヶ月だ。おおよそ計算もあう。
 それぞれディバックを入れればいっぱいになってしまう程度のサイズ。開放ペースが他のスポットよりも小刻みなのは、一回の開放物資量が少ないからに違いない。 
 特注品だろうか、どこにも文字が入っていなかった。
 全体にシルバーの染色が入っており、一つ一つの扉に三角形の小さな模様が入っているだけのシンプルな作りだ。
 駅ロッカーのように見える。

 端から端までじっくりと観察した朔が、「素材は強化スチール。破壊するのは難しいだろう」淡々と言う。
 プログラム前の説明のときに、無理に扉をこじ開けようとすれば首輪が爆破されると聞いていたので、ぎょっとする。
 まぁ、朔も本気で破壊を考えているわけではないようだ。
「……三角形の色に、二種類ある」
 言われてみれば、半分弱が白色、半分強が黒色をしていた。
「これは、おそらく……」
 朔はいくつかのロッカーに触れ、「白が開錠済み。黒が未開錠ということか。開錠時に絵柄が切り替わる仕組みだ」一人納得した顔をする。
 そして、白い三角形のついたロッカーをすべて開けていき、「幸運だな。一つは開いたばかりだったようだ。物資が残っている」振り向き、右口角を上げた。
  
「物資量はやはり少ないな。食料、生活物資……拳銃、銃弾」
 大河と朔はすでに拳銃を所持していたため、高木航平に渡そうとしたが、「お、おれ、こんなの持ちたくない」と拒否された。
「これは……?」
 ここで初めて、朔の声が乱れた。
 見ると、小さなケースを持っている。
「なに、それ」
 訊くと、朔は無言で頷き、ケースを開けた。中からトランシーバーのような機械のほか、説明書だろう、紙片がでてきた。
「移動しながら読もう。このあたりはしばらくしたら禁止エリアになる」
 朔が乾いた声で言う。
 さきほど定時放送がかかっており、発表された禁止エリアにこのあたりが入っていた。
 これに、航平が反応した。
「徳山、大丈夫かな」
 いささかうんざりした表情で「あそこは今回の禁止エリアじゃない」朔が言う。

 ケースに入っていたのは探知機だった。指定したクラスメイトの出席番号の居場所をつかむことができる。設定は一度きりで変更は不可。最大寸借は一キロ。
「使い所が難しいな」
「もしはぐれたら、俺を見つけてよ」
 半ば冗談だったのだが、「そうだな」頷かれる。
 言った後で、今後展開によってははぐれてしまう危険性もあるんだな、と考え、ぞっとした。

 くねくねと折り曲がった山道。
 雑木林に囲まれ、視界は悪い。自然、足取りは注意深くなっていた。

 やがて、山道の先に深い谷があらわれた。
 谷底には渓流があり、冷気が漂っている。浅く、流れの中からごつごつとした岩が顔を覗かせていた。
 谷の落ち幅は30メートルほどだろうか。
 雑木林の圧迫感からは開放されたが、次はその高低差に不安を感じる。
 そして、少し先につり橋が見えた。



「不安定なルートは取りたくないが……」
 朔がつり橋を見、つぶやく。
 植物のつるで両岸から本体を支える原始的な構造。人専用だろう、車両などが渡られる幅はない。
 慎重な朔でなくても、本能的な不安を感じた。
「俺、高いところ苦手なんだよね」
 落差およそ30メートルに、橋の長さは15メートルはあるだろうか。
 高木航平も不安げな顔だ。
「でも、戻ってる時間、ないよね」
 このあたりはもうすぐ禁止エリアに指定される。少しでも早く離れる必要があった。
「ワイヤーの補強が入っているところを見ると、まぁ現役なんだろう」
 朔はそう言って肩をすくめると、「行くか」及び腰の二人を先導する形で進みだしてくれた。
 桁部分もつるで割木を繋いだだけのはしご状で、とにかく怖い。
 おそるおそるついて行くと、冷気をより強く感じた。ざざざと、渓流の音も強まった。

「夏に行ったキャンプを思い出すね」
 気分を変えようと、明るい話題を口に出す。
 夏休みの始めごろ、朔の兄である滝口優……実際は朔の世話役の大神優監視官だが、大河はそのことを知らない……に誘われ、長野にある神崎高原リゾートに行った。
 神崎高原リゾートは大東亜共和国有数の保養地だ。
 大河たちが行ったのはその中のキャンプ村だった。
 滝口兄弟に大河が加わる形だったが、優は気さくに話しかけてくれ、楽しい時間をすごせた。
 あのキャンプ地にもつり橋があったことを思い出したのだ。
 まぁこれほどの高さではなかったが。
「ああ」
「また、来年の夏に、行こうね」
 『来年』というところに力を込める。
 それは、生き延びたいという意思だ。



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中村大河
朔と親しいが、兵士であることには気づいていない。
滝口朔
撮影記録のために潜入している兵士の一人。任務成功報酬の強制士官免除が望み。孤児院育ち。
高木航平
サッカー部。人との距離感が近く、朔とも親しく話してくる。