<中崎祐子>
「ケン……」
航平が青い顔で呟く。
エントランスホールには、どこかで割り当てをサボっている矢崎ひろ美以外の全員が揃っていた。
そして、ホールの木床に座る、遠藤健(場面としての登場は初)。
航平と同じサッカー部に所属。元はBスポットにいたが、賢斗だけが物資開放問題を解くことに反対し、出て行った少年だ。
大河たちが海から戻ってきたら、彼がエントランスの床に座り込んでいたらしい。
中背の痩身を制服に身を包んでいるだけの姿。これで表を歩いていたのなら、寒かったことだろう。
まぁ、Bスポットは食料や娯楽物資が豊富なかわりに、衣類や武器の支給が少ないので、祐子や千代里、航平など元からBスポットにいるメンバーは似たり寄ったりの服装ではあるのだが。
健の制服は泥で汚れ、そしてあちこちに血痕が残っていた。
腕を怪我しているらしく、タオルを巻いていた。
そのタオルも朱に染まっている。
血はすっかり固まっており、新しい傷ではないようだ。
「ちょっと前に、碓氷にやられてさ」
脇に置いたリュックをさすり、健は顔をしかめる。
ろくに顔も洗ってないのだろう、すっかり垢や泥にまみれている。
きりりと一文字にあがる眉に、切れ長の瞳。
肌ににきび痕が目立つが、本来はまずまず整った顔立ちだ。しかし、野営の疲れと汚れで見る影もない。
碓氷ヒロと名河内十太がプログラムに乗っていることは滝口朔らから聞いていたが、こうしてその証拠を見せ付けられると、喉が詰まるような思いになる。
「もう痛いし寒いし……」健は続け、「今シャワー使える? 腹も減った。何か出してよ」当然のように求めてきた。
床から立ち上がり、エントランスホールに設置された皮のソファに座りなおす。
……あ、まずい。
ざわざわと身体の総毛が立つ。
「何言ってんのよ、勝手に出て行っといて」
予想したとおり、千代里の癇に障ったようだ。
「こいつにもペナルティが必要、だな」
元々親しかっただけに、健の振る舞いに憤りを感じるのか、航平も怒り顔になっている。
「……ペナルティ?」
中村大河が怪訝そうに問う。
「物資の配分方法を変えることにしたんだ」
航平の説明に、「なるほど」滝口朔が頷く。
航平の言葉足らずな説明で大体のところを察したようだった。
「それは、決定事項なのか?」
彼らしい問い方をする。
「うん、サクたちがいないところで決めて、ごめんね。でも、サクたちはよく働くから、得になると思うよ」
「そそ、詳しいとこを言うね」
航平の後をついで、蓮子が話し始める。
朔は説明に「そうか……」と頷くだけだった。
少し残念そうではある。もしかしたら、彼にはいずれこうなる予期感や諦めがあったのかもしれない。
「南美は? それでいい?」
ふと思い立ち、凪下南美に話を向ける。
クラス委員の彼女は、普段の学校では場の中心にいて仕切り役を担うことが多かった。
反対してくれないかと祈るような思いで南美を見るが、「みんながそれで行くってんなら、従う」相変わらずの、可愛らしい顔立ちに似合わない雑駁な話し方で返してくるだけだった。
その後、真一文字に口を結ぶ。
これに、おや、と思った。
南美が何か、決意をしているように見えたのだ。
それも新たな決意ではない。もともと考えていたことに後押しを得たような……そんな、顔だった。
「南美?」
訊くが、「ん?」彼女はわずかに表情を和らげるだけだった。
−17/28−
滝口朔(兵士) 記録のために潜入している兵士の一人。任務成功報酬の強制士官免除が望み。孤児院育ち。
中村大河 陸上部。朔と親しいが、兵士であることには気づいていない。
凪下南美 開始早々仲間ときのこを食し中毒に。一人生き残ったが、体調が戻らない。
中崎祐子 調理を主に担当している。おっとり型。朔に声をかけてきた。
河合千代里 祐子と親しい。気の強い性格。陸上部。
高木航平 運動部。他人との距離感が近く、朔にも親しげに話しかけてくる。
馬場賢斗 学校いちの秀才。Bスポット物資解放の要。
矢崎ひろ美 普段はおとなしかったが、喫煙するなどマイペースに過ごしている。
瀬戸晦(兵士) 兵士の一人。やはり強制士官者。朔たちより少し前にCスポットに到着。
桐神蓮子 親が宗教に入れ込んでおり苦労している。Dスポットを機能停止に追い込んだ。
遠藤健 トラブルがありCスポットを出て行ったらしいが、もどってきた。
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