<滝口朔>
「恋、ですか」
中村大河を見送り、今度は瀬戸晦が朔の隣に座った。
「そんなんじゃない」
しかめっ面をするが、彼は穏やかに笑うだけだった。
大河のようにからかいは含んでいない。ただ静かに微笑んでいる。
彼もまた専守防衛陸軍士官学校に籍を置いている。
優秀ではあるが、その押し出しの弱さからか、朔よりも昇級は遅れている。
「二人に、なってしまったな」
「ええ」
晦が力なくうなづく。
プログラム開始当初は四人いた記録兵も、鈴木弦(自殺)、水嶋望(名河内十太が殺害)と順に命を落とし、残り二人だ。
「大丈夫か?」
「ここは環境がいいので」
晦は分析能力に秀でているが、身体能力や体力面はやや落ちる。
一般生徒に比べ鍛えられているとはいえ、プログラムによるストレスは相当のものに違いない。
……そういえば。
ふと、考える。
……そういえば、瀬戸のことはあまり知らないな。
彼とまともに話したのは、一年前、プログラム潜入任務を受け、その準備期間に入ってからだ。非常におとなしく、自分語りもないため、晦についての知識はほとんどなかった。
まぁ、彼も強制仕官制度による軍役とのことだから、朔や弦と似たり寄ったりの境遇なのだろう。
晦の丸顔をしみじみ眺め、そんなことを思っていると、「雰囲気が変わりましたね」言われた。
「その台詞は聞き飽きた」
苦々しく笑うと、「失礼しました」彼も笑う。
晦の敬語は、もともとの話し方のようだ。
上級の朔や鈴木弦だけでなく、同じ階級の水嶋望にも敬語で接していた。
もちろん、潜入先、有明中学校では普通に話していたが。
やや置いて、「生き延びよう」朔は宣言する。
「え?」
戸惑う晦に、「三ヶ月生き延びて、任務を無事遂行して、帰るんだ」繰り返した。
任務を云々は、首輪に内臓された聴集マイクを意識して付け加えただけだったので、自然台詞は前半が強くなった。
「……わかりました」
晦はうなづき、「生き延びて、任務を無事終えて、帰りましょう」朔の台詞を繰り返す。
彼の台詞もまた、頭が強くなっていた。
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