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OBR4 −ダンデライオン−  


040 2005年10月18日00時30分


<名河内十太>

  
「この子、ほっといても勝手に死んでくれたんじゃね?」
 雑木林に囲まれた山道
 一メートルほど離れた位置に立つ少年に、名河内十太は内容とそぐわない軽い口調で声をかける。
 遠く、東の空を眺めていた少年……碓氷ヒロもまた「ま、そうだろうネ」軽く返してくる。
 くりくりとよく動く丸い瞳。ぽってりと厚い唇。つるりとした白いほほ。決して整っているわけではないが、どこか人好きのする愛嬌のある顔立ちだ。
 十太はカーゴパンツに厚手のパーカーという姿だったが、ヒロは制服のままだった。上にマウンテンジャケットを羽織っている。

 二人の足元に倒れるのは、柳早弥の小柄な体躯だった。
 山道の脇、下生の茂みをうつぶせに押しつぶすような体勢だ。背中をばっさりと斬られており、傷口からどくどくと血が流れ、池となっている。
 この先の窪地に、彼女が交際していた崎本透留の亡骸があるのだ。
 透留の遺体は少し前に見つけた。プログラム開始早々にヒロが殺害し、そのままにしていたのを誰かが簡易埋葬したらしく、枝葉に覆われていた。
 殺害から20日足らず。
 すでに腐敗が進んでおり、あたりには醜悪な匂いが立ち込めており、羽虫が舞っている。

 早弥が窪地に入ろうとしているところを見つけ、ヒロが背後からサーベルで一太刀に斬った。
 驚いた拍子だろう、彼女は手に持った銃から発砲していた。狙いはもちろん定めておらず、弾丸は地面に埋もれたようだ。ヒロはその後、サーベルの刃で早弥の首筋を斬り、彼女は絶命した。
「この刀、もとは透留のものナンダ」
 開始直後のAスポット物資開放で崎本透留が手に入れたものだそうだ。
 その刀を奪い、ヒロが透留を殺した。
「同じ刀で死ぬってのも、ロマンチックっていうのかナ」
 語尾にイントネーションを置く、独特の話し方。
「彼女的には、崎本のそばで自殺したかったんんじゃない?」
「余計なことをしたかナ」
「テレビのドキュメント番組では、野生動物は無駄な狩りはしないっていうけどね」
 以前の会話を踏まえた皮肉を向けると、「ああ。サバンナのライオンとか映してるやつ。……テレビカメラの前では誰だって紳士になるサ」笑って返してきた。
 その童顔に、後悔や死体を目にしての恐怖は見えない。

 
 碓氷ヒロとは一学年のとき、同じ吹奏楽部に所属していた。常に刺激を求めている十太のこと、すぐに飽きて辞めてしまったが、彼とはずっと親しくしてきた。
 十太の性質は対人にもおよび、友人や交際相手との親密な関係は長く続かない。
 彼彼女たちと一緒にいることに退屈感を持ってしまうのだ。
 関係を放棄するわけではないが、当たり障りないものになってしまう。
 そんな十太が『飽きない』でいられる相手が、遠縁で幼馴染でもある西塔紅美と、このヒロだった。

 紅美とは単純に腐れ縁であることが大きい。
 小さなころからずっと一緒なので、飽きる飽きない以前の問題で、一緒にいることが自然なのだ。
 もちろん、彼女独特の価値観やその価値観から逸れないでいられる強さには、十分惹かれるのだが。
 ヒロは……ごく普通の少年のように見える。
 明るく人懐っこい質で、外見の幼さも相まって、クラスでは弟のように扱われている。
 だけどその裏には別の顔があるように、十太は感じていた。
 いや、ヒロ自体はあまり隠そうとしていないので、裏というと語弊があるのだが。
 
 はじめに彼の闇を感じたのは、ハムとクロの話をしたときだった。
 ちょうど紅美とヒロが交際を始めたころだったので、何気なく、彼女の失敗談……ハムスターと黒猫の同居を試みようとして残酷な結果に終わらせた話をした。
 まだ小学生に上がる前の、昔の話だ。
 これにヒロは、「僕は、幼稚園のころカナ。金魚……たしか、キンだったかな、そんな名前をつけてたんだケド。どこの命名法も安易ダネ……まぁ、とにカク。金魚を飼ってた水槽にザリガニを入れたことがあるヨ」と答えてきた。
 その結末は容易に想像がつき、十太は彼を慰める言葉をかけようとした。
 しかし、その前にヒロは「ザリガニが獲物をとるところって、結構カッコよかっタ」と続けたのだ。
 あのとき、まじまじと彼の顔を見つめたことを覚えている。
 
 紅美とヒロの話は根本のところで違う。
 幼い紅美は、ハムスターと猫が仲良くしてくれると思っていた。
 だけど、ヒロは、始めからザリガニに金魚を与えようとしたのだ。ザリガニにえさを与えるのは当然だ。
 しかし、名前をつけてそれまで大事に育てていたであろうペットを与えたというところに、十太はヒロの特異性を感じた。
 戸惑う十太をよそに、ヒロは相変わらずの人懐っこい笑みを浮かべていた。
 そして、十太はヒロの本性を悟るとともに、彼が明朗な普通の少年と思われている理由も理解した。
 みな、ヒロの愛嬌や容貌に、勝手に納得してしまうのだ。
 あのとき、周囲にはほかにも友人がいたが、それぞれ、ヒロが悲しさや己の過ちをブラックジョークで誤魔化しているように思ったようだった。

 ヒロは隠さず、奔放に残酷だ。
 だけど、いたずらっ子のような、人好きのする容貌、キャラクターが、それを違った印象にしてしまう。
 十太は、自分自身に他人よりも人を見る目があるとは思っていない。
 単に、いつも刺激を求めているから、ヒロの残虐性に気づくことができたと捉えている。

 そのつもりで眺めれば、ヒロの言動は刺激に満ちていた。 

 社会的弱者に対する態度。悲劇的なニュースに対する反応。
 若者が悪ぶるのとは違う。もっと純粋に自然に無邪気に、彼は残酷だった。
 おそらく、当たり前の道徳感とは少しズレた位置にヒロはいるのだろう。
 そんな彼が西塔紅美と交際をはじめた。
 紅美のことを思えば懸念ではあったが、彼女流に言えば、それも『自己責任』だ。ヒロが他人に危害を加えることに喜びを感じるタイプではないようだったこともあって、放っておいた。
 碓氷ヒロは、変人だが狂人ではない。これが、十太の認識だ。   

 だけど、プログラム。
 生きるために人殺しが合法となったこの鎖島で、彼がプログラムに乗る可能性は多大にあった。
 だから、ヒロとの合流を望んだ西塔紅美に、安全に見えて毒のある生き物の話をしたのだ。
 そして、ヒロはまさにそのとおりの『生き物』だった。
 今もまた恋人のそばで自決しようとした柳早弥を、彼女の想いをあっさりと斬って捨てた。
 それがいかに悲しいことであるか、ヒロにはわかっているのだろうか。
 殺した少女に関心すらないのか……それはそれで興味深い心理ではあるが……今も「結構、おいしいネ」などと言いつつ、携帯チョコバーに噛り付いている。
 たちこめる血の匂い、死臭。
 ……こんなところでよくメシが食えるな。
 半ば感心しながら、ヒロのことを思う。

 少し、不思議に思うことがあった。
 確かにヒロは残酷だが、人殺しに悦楽を得るような人間ではない。
 プログラムに乗る可能性を感じてはいたが、ここまで積極的だとは思っていなかった。
 何が、彼の背をおしたのだろう。
「たとえば、この木」
 目の前に立つイチョウの木の幹に触れ、始める。
 10月も半ばをすぎ、あたりはすっかり紅葉していた。
 もう少し時がたてば、地面が落ち葉で埋め尽くされるのだろう。
「ン?」
「たとえば、このイチョウが空に向かって伸びているのは、少しでも光を得たいからだ。この2、3日、空気が冷たくなってきたのは冬が近づいてきているからだ。空に星や月が見えるのは、夜だからだ。人が靴をはいているのは、裸足だと足が痛いからだ。柳早弥がここに来たのは、崎本の隣で死にたかったからだ。ヒロがチョコバーを食うのは、腹が減るからだ」
「フム」
 日ごろから付き合いのあったヒロのこと、十太の話の運びに慣れている。
 十太独特の唐突な話入り、意味の無さそうな展開にも特に疑問符を挟まず、相槌を打ってきた。
「そんで、俺が女にもてるのは、顔がいいからだ」
「ま、たしかに、かっこいいケド」
 ヒロの苦笑の後、十太は本題に入った(十太としては最初から本題のつもりなのだが)。
「ま、どんなことにも理由があるわけだ。……で、ヒロは、なんでゲームに乗ったんだ? 死にたくないとか、そーいうんじゃないだろ、お前の場合」
「ひどい言われようだネ」
 いつものように明るく笑った後、ヒロはふっと真顔になった。
 初めて見る彼の表情に戸惑う。
 やがて、童顔の少年は口を開き、「やってみたら?ッテ」そっと息を吐くように言葉を投げてくる。
「え?」
「やってみたら?って、言われたんダ」
「なんだ、それ」
「なんだろネ、コレ」
 十太の口調を真似、ヒロは言う。

「ほんト、一言。……やってみたら?って、言われたンダ。で、やってみタ。それだけだヨ」
 唖然として、「誰に?」訊く。かすれた声になった。
 ……誰だ?
 心の中では、己に問うていた。
 誰だ? 誰が、ヒロの背を押した?
 困惑していた。



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名河内十太
バスケットボール部。常に刺激を求めている。ヒロと組んで水嶋望を殺害した。西塔紅実とは遠縁で幼馴染。
碓氷ヒロ
積極的にプログラムに乗っているが、気ままな性格で殺害にも執着しないため仕損じも多い。