<三上真太郎>
先ほどまで瀬戸晦一人が浜に居たのだが、いつの間にか人数が増えていた。
テーブルの上においてあった双眼鏡を手に取り、レンズの先を見る。双眼鏡は、先ほどの開放物資の中にあった。
まず、滝口朔と中村大河が目に入った。
開始早々、Aスポットで一緒になった二人だ。
滝口朔……兵士であることを真太郎たち一般生徒は知らない……は二年からの転入生で、眼光鋭い三白眼が印象的な少年だ。
転入当初はその強面から自分たちと似た系統なのかと思っていたが、特に悪さをすることはなかったので拍子抜けした記憶があった。
まぁ、明るく元気な中学生という風情からも程遠い、愛想ない男ではあるのだが。
天然ボケというか、世間ズレというか、ときどき突拍子もない発想、言動をすることもあり、見ていて飽きなくもある。……本人は真面目に嫌がるだろうが。
中村大河は、まさしく『明るく元気な中学生男子』だ。
ある程度外の社会で揉まれている真太郎からしてみれば、多少子どもっぽくみえるところもあるが、それも年相応というところか。
他に、佐藤慶介と徳山愛梨のカップル。もう一人いるようだが、顔が良く見えなかった。
佐藤慶介もいることを知ると、友哉の顔が曇った。
その気持ちは、なんとなく分かった。友哉は慶介と同じバスケットボール部で、親しくしていた。今の状態を友人に見せたくないのだろう。
佐藤慶介が友哉の名を呼んできたが、応えもしなかった。
*
「そういや、ジッタやゲンどうしてんのかなっ」
相変わらずのテンションで、速人がと鈴木弦の名前を挙げた。
あまり知られていないことだが、十太や弦も、真太郎たちの仲間だ。
名河内十太は他に親しいクラスメイトがおり、学校生活ではそちら中心となっていたが、放課後は真太郎たちと一緒につるみ、夜遊びや喧嘩に興じていた。
「あいつなら、どこでもうまくやってるよ」
真太郎は、苦笑交じりに言う。
名河内十太は、様々な顔を持つ少年だった。
速人とハイテンションに話すかと思えば、友哉と落ち着いて話すこともある。
誰とでも垣根なく接することが出来る彼ならば、この状況でもうまく居場所を見つけているだろう。
鈴木弦……朔と同じく兵士であることを真太郎らは知らない……とは、一時夜遊びにふけった仲だった。
最近は行動を共にすることはなかった。彼の志向は多方面で、真太郎らとの交流はその一つなだけだったのだろう。
親や学校にやるせなさを感じ、夜遊びに向かった真太郎としては、釈然としないものを感じる。
速人や友哉は拒否感を持っていないようで、その後も変わらなく接していたが、真太郎と弦の関係は少しギクシャクしたものになっていた。
Aスポットで彼と遭遇したときも、食って掛かったものだ。
弦とはもう会うことはできない。
さきほどの定時放送の死亡者リストの中に入っていた。
「……自殺」
ふと、呟く。
彼には、どこか儚さも感じていた。真太郎には、弦の死亡原因としては、自殺がふさわしいように思えた。
「あいつらと、会いたかった、なっ」
ふっと速人の声のトーンが落ちた。
その声色に驚き、真太郎は思わず彼の顔をまじまじと見つめた。
「なに、シン、俺に気ぃあるの? 俺、男も女もどっちでもいけるよっ」
「何アホなこと言ってるんだ」
軽口をたたきあう。
速人の表情には、既に先ほどの曇りはない。
一瞬の様相の暗さもだが、『会いたかった』という表現が気にかかった。
プログラムという、いつ命を落としてもおかしくない現状をこれ以上なく把握し、覚悟している言葉だった。
そんな台詞が、単純で奔放としか捉えていなかった速人から飛び出したことに、真太郎はショックを受けていた。
*
と、視界の端に何かがよぎった。
Dスポットは三方に窓がある作りになっており、そのうちの一方の先、建物が背にしてる斜面の上で誰かが動いたのだ。
身体の向きを変え、斜面側、北側の窓の向こうを見やる。
双眼鏡のレンズの向こう、ゆったりとした足取りで歩いているのは女子生徒だった。制服の上にレインコートを羽織り、右手で傘を差している。
雨で濡れそぼったスカートが脚にまとわり付いていた。
彼女が歩いているのは10メートルほどの急斜面の上なので、下にいる真太郎は見上げる形になった。
「桐神……」
思わず、名前を口に出す。
自然に流していた長い黒髪を髪留めでまとめているので様子が変わって見えるが、すっきりとした色白の横顔は確かに桐神蓮子のものだった。
真太郎たちに、スポットを占拠し、物資をクラスメイトたちに分ける立場になるアイデアを持ちかけてきたのは彼女だった。
『協力料』として、より多い物資を手に入れるための作戦のようだった。
蓮子は、普段はごく普通の女子中学生として振舞っていた。
参謀よろしく近づいてきたときは戸惑ったものだが、同時に得心も感じていた。
蓮子は、宗教かぶれの両親に苦労させられていた。
平凡な家庭、温室育ちのクラスメイトたちとは違った思考をしてもおかしくはない。
そう、思ったのだ。
また、クレーマー気質の両親にやはり苦労させられている真太郎は、彼女に不思議な連帯感を持っていた。それを恋と呼ぶのか、好意を呼ぶのかは、まだ真太郎自身も良くわかっていなかったけれど。
吹きすさぶ風に傘がとられ、桐神蓮子は歩きにくそうにしていた。
進行方向としては、瀬戸晦らとは逆側、東側になる。
「……シン?」
固まってしまっている真太郎に、山本友哉が怪訝な声をかけてくる。
「どったの?」
窓の外から、五十嵐速人も追随した。
やがて、北側の窓から桐神蓮子の姿が消えた。
ややあって、東側の窓の向こう、やはり斜面の上に、彼女が再び現れる。
「あれ、誰?」
友哉の言葉を無視する。
意識的に無視したわけではない。奇妙な緊張感に囚われ、口が動かなかったのだ。
どっどと心拍が上がっていた。
……なんだ? なんだ、コレは?
得た感覚に戸惑う。
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