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OBR4 −ダンデライオン−  


020 2005年10月13日12時00分


<曲刈晃次>


「うわ……」
 間刈晃次は、雨に濡れた地面に崩れ落ち、腰をつけた。
 恐怖に体中の骨が抜かれたようになっていた。右手の痺れは、先ほど撃った銃の衝撃によるものだ。
 会場の中央部からやや西よりに位置する千鎖湖
 湖の北西には山が迫り、西は小高い丘が控えている。
 山丘はそれぞれ雑木に覆われ、雨に波打つ湖面に揺らいだ緑を映していた。
 いっそ幻想的といっていい風景だった。
 
 見上げた先に立つのは、碓氷ヒロだった。
 中背で華奢な体躯。くりくりとよく動く瞳、ぽってりと厚い唇。つるりとした白い肌。決して整っているわけではないが、愛嬌のある可愛らしい顔立ちだ。
 ヒロは、その容貌に似つかわしくない得物、サーベルを手に持っており、雨に濡れた刃に恐怖を重ねる。
 ……陰と陽。
 ふと、そんな言葉が浮かんだ。
 痩せぎすの身体に、陰気な印象を与える伏目がちな細い瞳、薄い唇という自身の容貌と、目の前の少年を比べて浮かんだ言葉だった。
 

「びっくりシター」
 語尾や所々に独特のアクセントをおく話し方。
 湖畔をびくびくと歩いていたたら、茂みの中から突然ヒロが現れた。思わず、持っていた銃の引き金に力をこめてしまったが、反射的なもので殺意はなかった。
 照準も何もあわせようがなかったので、弾丸はあさっての方向に消えている。
「ごめん、いきなりで驚いて……」
 人付き合いが苦手な晃次だが、ヒロは話しやすい相手だった。
 クラスでほとんど唯一親しくしていた相手ともいえる。
 プログラムの恐怖からとはいえ、そのヒロに銃を向けてしまったことにショックを受ける。

 晃次の惑いには頓着せず、ヒロはにこりと笑い、「二つあるネ」と指差してきた。
 その先にあるのは、二つのリュックサックだ。
 まったく同じ形状ではなく、デザインやカラーが異なる。一つは晃次のもので、もう一つが凪下南美のものだった。
 数日前、食中毒に苦しむ彼女から奪い、得た。

「……凪下?」
 ぽつりとヒロが言った。
 予期しなかった指摘に息を呑む。
「凪下のリュックと同じ色ダ」
 沈黙と怯えが答えとなってしまった。
「へぇ……。でもさ、晃次ってば、凪下のこと好きジャなかっタ?」
 どきりと胸が波打った。
 事実だった。
 晃次は、凪下南美に淡い恋心を持っていた。
 明るい性格、可愛らしい容貌、クラスの中心的人物で女子クラス委員も務める彼女と釣りあうはずもないと思い、ひた隠しにしていたのだが……。
 ヒロは無邪気のようで、妙に鋭い面も持っている。
 何かのタイミングで気取られてしまっていたのだろう。

「殺しタ?」
 彼の問いに、ぶんぶんと頭を振って返す。
 小首をかしげ、顎先に右手を置く形でヒロが軽く頷いた。
 その顔をまともに見ることが出来ない。

  
 自身が酷く汚らしいもののように感じていた。
 人が苦しんでいるのに、助けもせず物資を奪う。見下げてしまうような行為だった。しかも、それは恋心を抱いていた相手だ。
 自己嫌悪。
 物心付いて以来、慣れ親しんできた感情だ。
 己に自信が持てず、いつも伏目に生きてきた。
 陰気な容貌に、性格。
 それは、虐めの格好の的となった。
 幼い頃から大なり小なり虐めや嫌がらせを受け、今のクラスでも三上真太郎のグループにからかわれる毎日だ。

 だけど、晃次は分かっていた。
 少なくとも真太郎たちは、積極的に虐めをしようとしているわけではないことを。
 彼らは、単純に粗野なだけなのだ。
 その証拠に、真太郎らは、他のクラスメイトにも口悪く、乱暴に接する。
 クラスメイトのほとんどは、それを真に受けず、時には意図的に流し、時には笑いに変え、事を大きくしない。
 でも、晃次には同じことが出来なかった。
 彼らのからかいをまともに受け、黙り込んでしまう。青ざめてしまう。
 関係を虐めの構図にしているのは、他でもない晃次自身なのだ。
 分かっていたが、どうすることもできない。
 どうすることもできないから、自分自身がまた嫌いになる。
 いびつな循環をとめることもできず、ここまで来てしまった。

 ……だけど、もしかしたら。
 もしかしたら、二年後三年後には、違った自分がいるのかもしれない。
 そう、考えることもある。
 15歳の今は出来ないことも、17歳なら、18歳なら、できるのかもしれない。
 それは、淡い期待だった。

 その『もしかしたら』が儚くついえようとしていた。
 プログラム。
 とてもじゃないが、生き残れるとは思えなかった。


 
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間刈晃次 
おとなしい性格。三上真太郎に苛められていた。凪下南美の荷物を探っているところを朔に見られている。