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OBR4 −ダンデライオン−  


013 2005年10月08日06時00分


<水島望>


「じゃぁ、物資は俺たちが貰うな」
 物資小屋に続く通路に立ちはだかった三上真太郎が威圧感のある声で宣言した。
 背が高く、がっしりとした骨太の体躯。彫りの深い整った顔立ち。
 普段は黒髪をオールバックに撫で付けていたが、整髪料がないためだろう、今は自然に前に流していた。
 そのせいか、プログラム前より幼く見える。
「ちょっと、どういうこと?」
 柳早弥(場面としては新出)が不満の声を上げる。
 ふっくらとした丸顔、耳にかかる程度のショートカット。小柄で大人しげな風情だが、実際はなかなかに気が強く、強面の三上真太郎にも負けていない。
 その目尻にはうっすらと涙のあとがあった。
 さきほどの定期放送で、崎本透留(碓氷ヒロが殺害)の死亡が確認された。
 早弥と崎本透留は交際していた。
 おそらく彼のために涙したのだろう。その数時間後には三上真太郎と渡り合えるのは、いかにも彼女らしい。 
 
 水嶋望みずしま・のぞみは、二人の言い争いを止めるでもなく、眺めていた。
 首輪に秘密裏に内蔵されたカメラの電源はオンにしてある。
 この様子は、プログラム作戦本部に即時送られているはずだった。
 望たちがいるのは、南の浜辺付近に構えられたログハウス風の建築物の中だ。
 浜が近く、ベランダが海に向けて張り出してあるので、海水浴場の浜小屋のような風情だった。
 ここが、Dスポットになる。

 望もまた、専守防衛陸軍から秘密裏に派遣された兵士の一人だ。
 プログラム開始時は他の生徒と同様に制服姿だったが、今は迷彩柄の戦闘服に着替えている。靴は半長のコンバットブーツ。
 ショートカットの黒髪はまとめ、迷彩柄のキャップの中に入れており、形のよい額ときりりとあがった太い眉を出していた。
 もとからの凛とした佇まいがさらに増している。
 カーゴパンツのホルダーには、拳銃とコンバットナイフがかけられていた。
 全て、Dスポットの初回物資開放で手に入れたものだ。
 Dスポットは銃器刀剣類が豊富に貯蔵されているので、武装という観点からは十分すぎるほどのレベルに達していた。

 ただ、食糧が足りなかった。
 第一回の物資開放では、武器も食糧も集まったメンバーでなるべく平等になるよう、分けたのだが……。 
「欲しけりゃ、分けてやるよ」
 真太郎の傍にいる山本友哉やまもと・ともや(新出)が、鼻で笑う。
 ひょろりとのっぽの体躯。
「まぁ、もちろん物々交換になるけどね」
 五十嵐速人いがらし・はやと(場面としては新出)嘲た目で周囲を見渡した。
 高く声を上げて笑う声が耳障りだった。

 三上真太郎は、初回物資解放をAスポットで受けたということだった。
 もともとDスポット付近にいた山本友哉と五十嵐速人は、制服から平服に着替えていた。
 二人とも下着を覗かせた腰パンツ、大振りのスニーカー、ポロシャツに、キャップを目深に被っている。首には白金チェーンを何重にもかけていた。
 友哉や速人が普段から好んでいるヒップホップ系のファッションだ。
 真太郎はまだ制服姿だが、後で着替えるつもりなのだろう、脇に友哉ら同様の衣類が積んであった。
 三人の手にはそれぞれ拳銃が握られている。

「女連中は、別の交換でもいいぜ」
 真太郎が、好色な笑みを浮かべる。
「冗談じゃないわっ」
 徳山愛梨とくやま・あいり(新出)が立ち上がった。
 これを、佐藤慶介さいとう・けいすけ(新出)が押さえ込んだ。
 愛梨と慶介は付き合っている。

 三上真太郎、山本友哉、五十嵐速人のグループ。徳山愛梨と佐藤慶介のカップル。柳早弥、そして、望自身。
 ほかに数人、集まっていた。
 Dスポットの第一回開放のときにいた西塔紅実の姿はなかった。

「逆らわないほうがいいよ……ね」
 それまで黙っていた桐神蓮子きりがみ・れんこ(新出)が、望に耳打ちしてきた。
 一重の切れ長の瞳、能面を思わせるつるりとした細面。
 肌は白く、透けるようだ。艶のある黒髪を腰の辺りまで伸ばしている。
「そう、だね。ヤバイよ」
 ごく普通の女子中学生の口調を装い、答える。
 それぞれ程度の差こそあれ武装できており、戦おうと思えば戦える。
 今後物資を巡って戦闘が発生することもあるだろう。しかし、まだ時期尚早だ。


 
 望は二学年の一月より転校生として有明中学校に潜入している。
 潜入に関しては、周囲に違和感を与えず溶け込んでいる自信があった。
 親しく話すクラスメイトも多い。
 クラス委員の凪下南美ほどではないが、女子生徒の中心的人物といえた。
 世俗的な情報についても問題はなかった。
 滝口朔のような世間とのズレはほとんどなかった。
 これは、数年前まではごく普通にテレビや娯楽雑誌に触れていたからだろう。

 数年前までは軍部高官の子女だった。
 父親が防衛陸軍の上層部の一角に席を持っていたのだ。
 しかし、権力争いに破れ、反政府運動に関わっているという汚名を被せられ、失脚。
 このとき、鈴木弦の父親も席を失っている。
 弦の父親は、望の父親の部下だった。運命を一蓮托生させられたのだろう。
 そして、望と弦は政治犯の血縁者として強制仕官制度で兵役につくことになった。

 父親同士の関係もあり、弦とは士官学校に入る前からの顔見知りだった。
 同じ環境に陥った弦がどのように感じているか興味を持って入学してみたら、彼が明るくしていたので驚いたものだ。

 望は駄目だった。何事もなかったかのようには振舞えなかった。
 もともと父親が高官であることを誇らしく感じていた。その娘としての英才教育を受けてきた望には、犯罪者の血縁と見られることが我慢ならなかったのだ。
 士官学校の寮室の枕を、何度涙で濡らしたことだろう。
 今現在では悲観する段階を乗り越えているが、割り切ってもいなかった。
 ……水嶋家の復興。
 これが、望の人生の命題だ。
 努力を重ね、女子官、強制士官者としては異例の昇進を続けている。
 一般に強制士官者の昇級はある程度で頭打ちにあるが、政府への忠誠を示し能力があれば、例外もあった。

 宇佐木教官からこの任務の指令を受けたときは、即答した。
 危険極まりない任務。高確率で命を落とす。
 しかし、生きて帰れば、二階級以上の特進が約束されていた。
 強制士官制度の免除の話もあったが、その選択肢は望にはなかった。
 父親は既に処刑され、母親や兄弟はそのショックと屈辱から腑抜けてしまっている。
 水嶋の家を再び盛り立てることができるのは自分だけだ。という思いが望にあった。その思いには、自己能力に対する自信と先行きの見えない未来への焦燥が張り付いている。

 プログラムの記録を撮るという任務も、積極的にこなしていた。
 開始早々から、柳早弥とあと一人、塩澤しおざわさくら(新出)と組み、行動している。
 彼女たちの主だった様子は撮影済みだ。



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水島望 
一般生徒を装って潜入している兵士の一人。 場面としては新出。