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OBR2 −蘇生−  


009  2004年10月01日01時30分


<城井智樹>

 
 ぴぴぴぴぴ……。
 禁止エリアに入ったことを知らす電子音が首輪から漏れ、城井智樹は慌てて飛びのいた。このプログラムでは禁止エリア進入後5秒で首輪が爆破される仕組みだ。
「あっぶね」
 いささか真剣味の足りない口調ながら、唇の端をきりりと引き締め、周囲を見渡す。
 立った音に反応した者はとりあえずいないようだった。

 プログラム会場の中央部に位置する、銛王湖の湖畔 。エリアとしてはCの4と5の境になる。Cの4エリアはつい先ほど、午前1時から禁止エリアに指定されていた。
 他の禁止エリアは、3時よりFの3、5時よりEの2。次の放送は6時で、後は6時間ごとに禁止エリアとそれまでの死亡者が発表されるそうだ。
 また、死亡者として高熊修吾の名前があがっていた。
 プログラム優勝者で、体格もよかった彼。放送を聞いたときは驚いた。
 それにしても、いったい誰に殺されたのだろう……。
 智樹は、修吾が堀田竜と深沼アスマに殺されるところをみていなかった。
 
 智樹の目的地は、北の集落の診療所だ。
 会場の北に設置されたときは診療所、南のときは銛王駅で待ち合わせをしようと、陣内プログラム説明時に友人の陣内真斗と待ち合わせた。
 智樹が目覚めたのは会場の南、銛王港だったが、第六感に従い、北の集落を目指していた。
 少し離れた位置に湖に沿うように木立が見え、風に煽られた木々がざわめていた。
 そのまま東に突っ切れば海にたどり着く。
 このあたりはキャンプ場になっていた。湖と海の他に銛王山がついてくるので、自然遊としては申し分ないレパートリー、さらに小さいながらもテニスコートもある。
 キャンプ場よりもリゾート地に近い規模だった。

 幸い智樹は軽装で拉致されていた。
 ジャージのズボンにVネックのスポーツシャツという姿。朝練習が伸び、シャワーを浴びる暇がなかったので、シャツだけを着替えた服装だったのだ。
 またズボンもシャツも濃色でうまく闇に溶け込めている。
 その足を覆うのは真新しいスニーカー。政府支給のディバックの中からでてきた。

 りりり……。近くの茂みから虫の音がする。見上げると満天の空に半月が浮かんでいた。
 とりあえずは、晴れててよかった。
 溢れそうになる恐怖心を押さえながら智樹は思う。
 星や月の光があるので、懐中電灯を使わなくてすんでいる。懐中電灯を使えば、他のクラスメイトから目視される危険がある。より安全に診療所を目指すことができるのは、喜ばしいことだった。

 ひょろりとのっぽの体躯に、小さな丸顔。髪はやや長く耳にかかっている。人の良さそうな目じりの落ちる瞳に、逆にくっとあがった太い眉。頬にはにきびをつぶした後が目立つ。
 お世辞にも整った顔立ちではないのだが、どこか人好きのする容貌である。
 歩みを止め、額に滲む汗を拭う。
 その指に光るのは、政府支給の指輪だ。
 智樹は表情を緩めた。そして、足元の小石を拾い、右手の平に乗せた。軽く手の平の上で転がした後、手に力を込める。
 まばたきの一瞬。
 小石は智樹の手の平から消え、数メートル先の空中に現れた。重力に従い、そのまま地面に落ちる小石を見やり、智樹はふっと息をついた。
 通常ならとても信じられるような現象ではない。しかし、智樹はいたって現実的な認識力の持ち主だった。
 実際に起こるんだから、仕方がない。これは現実、だ。
 ……まぁ、プログラムに巻き込まれたっていう事実ごと、丸ごと、夢だったら、いいんだけどさ。
 しかし、それもないと智樹の心が告げる。
 プログラムも、この指輪の力も、夢でも何でもない。現実だ。

 智樹の指輪名は『運び屋(トランスポーター)』 だ。
 説明書によると、触れたものを瞬間移動できる能力のようだ。
 運べる物体は、自力で動かせる重量に限られ、転送先は自力で運べる距離、位置に限られる。つまり、何百キロもするような物体を運ぶことはできないし、数メートル上空に運ぶこともできない。
 直接的な殺傷能力は皆無に等しく、当たり武器とは言いかねたが、もう一つの支給武器が拳銃、ブローニング・ハイパワーであることを考えれば、バランスは取れているとも言える。



 数分後、手ごろな岩の上に座り休んでいた智樹はびくりと立ち上がった。
 近くの藪を掻き分ける激しい物音が近づいてきたのだ。
「ちょ、冗談じゃないわよっ」
 続く、女子生徒の声。
 誰だ?
 岩の陰に身を滑り込ませ、耳を澄ます。おそらく複数人が駈ける音だ。そして、その音は確実に近づきつつあった。心拍が跳ね上がる。
 がさり、一際大きな音を立て、まず茂みから飛び出してきたのは、矢坂彩華だった。黒のパンツに、光沢のある白いシャツという服装、緩やかなカーブを描く栗色の長い髪が月の光を返す。
 ばちっ、視線と視線が当たり光射が起きたような気がした。
 智樹を見た彩華がにっと笑う。名前通りの、華のような鮮やかな笑顔だった。銀座あたりで酔客を迎えそうな艶やかな、自己主張の強い華。
「助けて!」
 しっかりとフルメイクされた彩華のグロス入りの紅い唇が開く。
 智樹が戸惑い声を返す間もなく、彩華が智樹の後ろに回った。
「ありがとう」
 ありがとうって、何さ?
 状況がさっぱり見えない。

 藪の向こうから長い髪を振り乱した和野美月が現れた。
「和野?」
「そ、彼女、やばいの。助けて」
 言われて彼女の目を見た智樹の背筋にぞっと冷たいものが走る。美月の切れ上がり気味の瞳は真っ赤に充血しており、空を見ていた。
 振り乱れる髪はそのままに、こぼれる唾液を拭おうともせず、美月はゆったりとした動きで周囲を見渡し、智樹と彩華を視覚した。
「ユウくん、ユウくん」
 うわごとのように誰かの名前を呼ぶ。
「ユウ?」
「美月が入れあげてるホストの名前っ」
 彩華の答えにかぶせるように、美月が「怖いの、ユウくん、ユウくん」連呼する。
「彼女……、何いってんの?」
「あの女、狂っちゃったみたい」
 こいつら、普段親しくしていたはずだ。なのに、あの女と来たか。
 智樹は軽く嫌悪の表情を浮かべた。

 美月は北陸の資産家の娘で、その少なくはない小遣いを夜遊びに使っているらしい。
 彩華もまた夜遊びにふけっているという話だったが、ほとんど授業に出てこない美月に比べてしっかりと出席日数を稼いでいたし、学業成績も決して悪くは無かった。
 おそらく二人で落ち合う約束をしたのだろうが、待ち合わせ場所に現れた片方は恐怖に耐え切れず狂っていた、というところか。
 やっとで状況が見えてきた智樹に、「助けてくれてありがと」彩華が言う。
 正直なところ、本意ではなく、彩華のペースに強引に巻き込まれた感がありありとするのだが、行きがかり上仕方なくブローニングの銃口を美月に向ける。
 これをわき目でみていた彩華が「じゃ、後はまかせたっ」と一声、駈けて行った。
「え、なんだよ、それ」
 美月を押し付けられた形だ。
「ちょっ、ふざけんなよっ」
 抗議の声を重ねるが、振り返るとすでに彩華の姿はなかった。
 ちゃっかりと言うか、ずうずうしいと言うか、生きることに正直と言うか。
 いっそ清々しささえ感じる。

 ……美月から注視が外れていた。
 どっと体当たりを食らい、智樹は湖に落ちた。水しぶきが上がる。幸い浅瀬になっていたが、湖底の岩に右肩を打ち付けてしまった。打ち付けた肩を起点に、足先まで衝撃が走った。
 握っていた銃が空を舞い、どこかに飛んで行った。
 身体がじんっと痺れた。
 そのまま半回転し、横たわる。
 浅瀬とはいえ、首を曲げないと水面下に顔が没してしまう。これに、美月が馬乗りになり、両手で智樹の首を絞めてきた。
「怖いの、怖いの……」
 やはりうわごとのように同じ台詞を繰り返す。さらに、首を絞めながら押さえつけてくるため、顔を水上に保てず水を飲まされる。
 必死で払いのけようとしたが、痺れが残っており身体に力が入らなかった。
 眼球周りの毛細血管が切れたのか、視界が紅く染まり始める。
 やば……。
 かろうじて動く左足で美月の腹を蹴り上げようとするが、無理な体勢だったためたいした力をこめることができなかった。首にかかる美月の手の力はますます強まり、いよいよ意識が遠のきはじめた智樹の脳裏に、ある考えが浮かんだ。



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城井智樹
私立ぶどうヶ丘高校一年。陣内真斗と同室。運動系クラブをかけ持ちするスポーツマン。高校に入りなおしており、実際は真斗より二学年上の18歳。