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OBR2 −蘇生−  


071    2004年10月01日19時00分


<陣内真斗>


 坂を上りきったところに、その建物はあった。
 滝のような雨のベールを纏った暗闇の中、錆付いた金網の向こうに見える、巨大なコンクリートの塊。その背を稲光が走る。二階建てで、石造りの門柱に銛王分校 の文字が彫り込まれており、脇に、立ち入り禁止の看板があった。
 運動場は裏手にあるらしく、門と校舎の入り口は割合近い距離にあった。
 懐中電灯の明かりに校舎が浮かび上がる。
 打ち捨てられてからどれほどの時間がたっているのだろうか、ほとんどの窓ガラスが割れ、蔦のような植物に侵食されている。
 すっかり廃墟然としていた。

 一年前のプログラムでは、分校がスタート地点になった。おそらくはこの戦いが最後の戦いになるのだろう。
 同種の建物から始まり、終わる。
 巡る運命を感じた。

 安全のために門扉につけられた南京錠が壊されていた。
 何かで叩き割ったというよりは、強い力でねじ切ったように見える。
「堀田……」
「え?」
「鮎川たちは、堀田の指輪も手に入れてると思う」
 既に一度話していたが、堀田竜と戦ったことや、彼の『アストロボーイ』の能力の説明をする。
「やっかいだな……」
 ぽつり、真斗は不安をこぼした。
 ただでさえ素人扱いの銃弾はなかなかあたらないのに、このプログラムでは、銃弾の類が5メートル以上では鉱石の力に遮られ、威力を失ってしまう。
 通常よりも接近戦になりやすく、腕力を強化する『アストロボーイ』は最大限の警戒が必要だった。
 真斗は冷静に、鮎川霧子たちの戦力をはかり直した。

 慎重な足取りで門扉を抜け、敷地に入る。
 あちこちひび割れ、雑草が顔を出しているコンクリの地面を、豪雨が激しい音を立てて叩いていた。
 校舎の入り口は元々はガラス扉だったのだろうが、全て割れてしまっており、ガラス片が散らばっていた。
 中に入ったところで、ぶるると身体を震わせ、水を飛ばし、タオルで拭った。
 激しい雨に体温と力を奪われ、すでに満身創痍まんしんそういだった。とくに彩華の顔色が酷い。
「大丈夫ですか?」
 先ほどと同じ質問をすると、今度は歪んだ笑みを返してきた。
 疲れきった表情だが、目の力だけは相変わらず強い。

 二人して懐中電灯で建物の中を探る。二つの光の輪が暗闇に踊った。
 エントランスは、奥行き5メートル幅10メートルほどで、化粧タイルがはめ込まれた床の上に、ボックスを蜂の巣状に積み重ねたような靴箱がいくつか並んでいた。
 靴の収容数はかなりのものになる。
 校舎の大きさから見ても、元々はそれなりの規模の学校であったことが伺えた。次第に生徒数が減り、分校となり、ついには廃校となったということだろう。
 カビついた壁にはカラースプレーでつけられた落書きがあり、また、あちこちの壁が剥げ落ちていた。
 天井も同上で、コンクリの破片や塊がいたるところにある。
 雨漏りも酷いらしく、いたるところに水溜りができていた。
 
 と、ここで、真斗は違和感を覚えた。
 なんだ?
 あたりを見渡すが違和感の正体がつかめない。

 がらん! 遠くで雷が落ちる音がした。打ち捨てられた校舎は普段は静寂に包まれているのだろうが、いまは降り続ける雨音と時折落ちる雷鳴が建物中に反響していた。
 霧子たちの姿は見えなかったが、泥水のたまった床に新しい足跡が点々と残っていた。
 ガラス片の散らばったエントランスに一歩足を踏み入れる。ガラスを潰す音が立ち、ひゅっと肝を冷やした。
 もう一度懐中電灯の丸い光を周囲にめぐらせる。やはり、霧子たちの姿はなかった。
 しかし、この建物にいることはたしかだ。どこかで息を潜め、自分たちの隙を狙っているのだろう。



 しばらく二人してそのまま立ち尽くしていたが、やがて意を決し、進み始めた。
 靴箱は蓋のないタイプだったため、一つ一つの靴入れの奥が見通せた。それぞれに埃や泥が溜まっており、誰かが置いたのだろうか、中には石やガラスの破片が入っているものもあった。

 唐突に始まった。
 異様な気配に真斗は見舞われる。既知の感覚。それは、数時間前に深沼アスマらに襲われたときに感じたものだった。
 空間を裂き、開く、気配。
 真斗は身構え、「矢坂!」彩華に注意を飛ばした。
 二人の懐中電灯の明かりが暗闇を交差するが、先ほどのような空間の歪み、宙に浮かぶ黒い小さな渦が見えない。
「どこっ?」
 彩華の惑い声に、真斗の焦燥が増す。

 半拍置いて、さきほどの違和感の正体を掴み取る。 
 左の景色がおかしい。
 暗かったため気がつくのが遅れたが、靴箱の一部、ちょうど腰の高さのあたりの部分、一メートル四方ほどに奥行きや材質を感じることが出来ないのだ。
 まるで、そう。壁に描かれた絵を見るようだ。
「左だ!」
 真斗が叫ぶと同時、絵のように感じられた部分がはらりと落ち、消えた。
 そして現われる、空間の歪み。懐中電灯の光が黒い渦の中へ吸い込まれる。
 歪みの中から黒い筒のようなものが見え、銃口だ、と思った瞬間、筒が火を噴いた。続く、錬撃。至近距離だったため、真斗も彩華も被弾してしまう。
「ああっ」
 太ももから血を噴き出した彩華が床に膝をついた。
 とっさに、握っていた智樹のブローニング・ハイパワーを歪みに向け、何発か撃った。
 身を引いたというよりは銃の反動で、身体が仰け反り、右側の靴箱に背をつけた。

「木ノ島っ」
 柱の影から鮎川霧子 の叫び声が聞こえた。
 どうやら木ノ島俊介 に命中したようだ。
 だだっと駆ける音がした。
 建て直しをはかるために一時退いたのか? と思う間もなく、再び黒い渦が出現し、ぴゅっと何かが空を切り裂く音がすると同時、化粧タイルの床が爆ぜた。
 目をやると、床のタイルにいくつか穴が開いているのが見えた。
 続く彩華の悲鳴。立っていた真斗とは違い、しゃがみこんでいた彼女はこの攻撃も被弾してしまったらしい。
 強張る身体を叱咤し、今度はホールドオープンするまで銃を撃った。

 ペットボトルに入れていた智樹の血を操作し、これも渦に向ける。
 今度こそ退避を決めたらしい、柱の影から木ノ島俊介と霧子が校舎の奥へ駆けていくのが見えた。
 木ノ島だけでなく霧子も血を流しているようにみえたが、かけた智樹の血であるか、今の銃撃が命中したのか、これ以前の戦いで負った傷なのかは、分からなかった。



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設定・ルール・指輪

陣内真斗
プログラム優勝経験者。このプログラムでも数人を殺害。優勝後、家族と関係を保てなかった。
『ブレイド』
血液を操ることができる。

矢坂彩華
20歳。罪を真正面から受け止めている真斗に惹かれてつつある。
『アドレナリンドライブ』
外傷を動かすことができる。