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OBR2 −蘇生−  


059  ぶどうヶ丘高校  2004年10月01日17時00分


<陣内亜希子>


「大丈夫ですか?」
 遠藤沙弓を見送ったあと黙り込んでいる亜希子深沼ミライ が柔らかい声をかけてきた。
 心配してくれていることがよく分かる。
「ええ、ありがとう」
 ミライの顔を見つめ、お礼をいうと、彼の頬がぽっと赤く染まった。人を食ったようなことばかりしているわりには純情のようだ。
 心の中でくすくすと笑うと、少しだけ楽になれた。
 
 亜希子とミライは教務室から出、保健室に来ていた。
 政府のプログラム関連のサイトの更新は6時間毎で、次回更新予定の夕刻18時半にはまだ間があったため、身体を休めるために移動したのだ。
 三田村早苗が入れてくれた暖かいココアに口をつけ、ほっと息をつく。
 こうしている間にもプログラムは進んでいるのだろう。
 真斗は無事なのだろうか。また誰かを殺してはいないだろうか。苦しんではいないだろうか。

 亜希子の中ではっきりと変化が生じていた。
 真斗のありのままを受け入れよう。もしまた帰ってきたら、今度は暖かく迎えよう。そう、思う。
 ……この変化は何だろう。どうして、こんなにすんなりと思えるのだろう。
 疑問を口に出すと、「きっと、あの女の子に頭を下げたからですよ」とミライが暖かい口調で告げる。
「頭を……」
「あのとき、亜希子さんは、真斗くんの家族として、頭を下げたんでしょ? あの子に真斗くんが迷惑をかけたことを……でも、僕からしてみれば……まぁ、いいや。後で言います。……真斗くんがあの子に迷惑をかけたことを、姉として謝った」
「家族として……」
「これは、すっごく意味のあることだと思いますよ」
 ミライが大げさに頷くと、三田村も「辛かったでしょう。私には関係のないことだと言いたかったでしょう。……頑張りましたね」と後を繋いだ。
「いえ……」
 軽く頭を振る。
 辛いだとか、関係のないことだとか、あのときは考えなかった。
 ただ、家族として、沙弓に謝ろうと思ったのだ。

 一拍おいて、はっとする。
 ……そうか。あの瞬間、自分は本当の意味で真斗の家族になったんだ。だから、こんなにもすっきりとした気持ちになれたんだ。
 ミライの顔をもう一度見つめると、やはり大げさに頷いて返してきた。
 そして、口を尖らせ、「まぁ、僕からしてみれば、あの女の子は、ムカツキの一言ですけどねっ」にっこり笑って毒を吐く。

 吹けば飛ぶような決意であることは、自覚していた。
 また優勝者の家族として風に吹かれれば、気を弱めてしまうのかもしれない。だけど、少なくとも今の時点では違う。
 ……この気持ちを大切にしなければいけない。亜希子はぎゅっと両のこぶしを握り締めた。
「僕も似たようなものですよ」
 ミライが小さく呟く。
「僕も、アスマがもし帰ってきたらどうしよう。どうやって受け入れよう。なんて考えてました。……でも、あの女の子に頭を下げる亜希子さんを見て、腹を括りました。もしミライが帰ってきたら、ちゃんと迎えようと思います」
 彼にしては珍しい真面目な強い口調で述べたが、「あのときの亜希子さん、すっごくキレイでしたよ」すぐに茶化したような物言いに戻った。

 真斗が戻ってきたら。アスマが戻ってきたら。
 それは、互いの弟が死んだことを意味する……亜希子らはこのプログラムの生き残りが実質二人であることを知らなかった……しかし、そこにいさかいはなかった。
 亜希子もミライも、生き残った者の苦しみを嫌というほど知っていた。優勝と引き換えに得る生活の厳しさを知っていた。
 もちろん、開放感や充足感はあるのだが、決して幸せ一辺ではないのだ。 


 と、マナーモードしていた亜希子の携帯電話がぶるると震えた。
 誰からだろうと取り上げ、ディスプレイを見ると、家からだった。
 家を出るときに、真斗の学校へ向かうと書置きを一応残しておいた。母親の牧子がそれを見てかけてきたのだろうか。怪訝に思いながら出ると、回線の向こうから男の声が響いた。
「よかった!」
 ガラガラとひび割れた台詞。どこかで聞いたことがある声質だ。
「陣内さんのところの娘さんですね」
「ああ、坂口さん」
 見当がついた。
「あ、すいません。名乗るのが遅れて。そうです、管理人の坂口です」
 坂口 は、亜希子と母親の牧子の住まいであるマンションの管理人だ。
 マンションには管理人と警備員が常駐している。
 女の二人暮しだ。機械的なセキュリティのほか、人的なサポートがあるのはありがたかった。
 警備員は警備会社から派遣されてきており、定期的に入れ替わっていたが、坂口には入居以来世話になっている。土佐犬のようないかつい顔をした50がらみの男だが、気さくで話しやすい好人物だった。
 
「でも、いったいどうして……」
 ディスプレイに家の番号が出るということは、坂口が亜希子らの部屋に入っているということだ。 
 まさか、家でなにか?
 すっと背筋が冷えた。胃から何か競りあがってくるものを感じる。
「先ほど管理人室に、お宅さんのお母さんから電話がありまして」
「電話が?」
「ええ、死ぬだとか、ご迷惑おかけしますだとか、言われまして。それで、慌てて管理鍵で中に入ってみたら、リビングで倒れてました。横には、何か薬の入ったビンが……。もしもし、もしもしっ? ……大丈夫ですか?」
 ふらり、足元が揺らぐ。
 横でハラハラとしていた三田村と深沼ミライが慌てて支えてくれたので、倒れずにすんだ。
「いえ、はい。大丈夫です。それで、母の様子は?」
「すぐに救急車を呼びました。横浜の官営中央病院に搬送されたようです。……いま、どちらです? 病院に向かいますよね?」
「はい、もちろんっ」
 意図せず怒声になったため、ミライがぎょっとした。

 電話を切り、手短に事情を伝えると、「なんてこと……」三田村が口元を手で覆った。彼女が一歩後じさった足が回転椅子にあたり、ガチャリと音を立てた。
「車で送りますよ。今日は休みだから、道もそんなに混んでいないでしょう」
 ミライが言ってくれたので、甘えることにし、薄く頷く。
 とても、電車を乗り継いだり、タクシーを拾う心境ではなかった。
 荷物を掴み、保健室を出て行く二人に、「ミライくん、後で連絡を」三田村の悲しげな声が追ってきた。



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陣内亜希子
真斗の姉。真斗の優勝後、婚約破棄されている。
深沼ミライ
深沼アスマの兄。ぶどうヶ丘高校の卒業生とのこと。
遠藤沙弓
真斗の元交際相手。真斗を心配して亜希子とぶどうヶ丘高校にきていたようだったが、その実真斗の死を願っていた。