OBR2 −蘇生−  


005  2004年9月30日17時00分


<陣内真斗>


「基本的な説明は、ここまでだ」
 相変わらずの尊大な口調で、宇江田教官が言う。
 聞いたところ、ほぼ前回と同じルール、システムだった。

 最後の一人になるまで殺しあう。
 優勝者には、生涯保障と総統の色紙が与えられる。
 支給武器と、会場の地図、コンパス、非常食、水、簡易医療セットなどが配布される。
 選手が一箇所に留まることを避けるため、爆弾入り首輪と禁止エリアシステムがある。
 首輪は爆弾入り。禁止エリアにかかると爆発する。
 禁止エリアは2時間毎に追加され、動けるエリアが狭まっていく。
 ただ、禁止エリアについては、前のプログラムはエリアに入った瞬間に爆発したが、今回は五秒間警告音が鳴ったあと爆発するとのことだった。これは、覚えておかなくてはならない情報だ。
 また、開始前に睡眠ガスがもう一度撒かれ、会場にランダムに寝かされる。起きたところでスタートになるという話だった。

 今のところは、プログラム優勝者である経験が真斗に有利に働いていた。
 早期に覚悟することが出来たため、宇江田教官の話を冷静に聞くことができ、分析することができている。多くの生徒はただ青ざめているだけなので、それは大きなアドバンテージだった。

 と、グループの女の子たちと震えていた鷹取千佳 が立ち上がり、「あの、質問いいですか……?」と囁くような声で言った。大柄の太った体躯が恐怖に震えている。
 思わず目を瞑る。
 前のプログラムでは、説明時に不用意に動いたり嘆いたりしただけで、三人ものクラスメイトが専守防衛軍の兵士や担当教官の銃の餌食になっていた。
 説明中は、目立つ行動は慎んだほうがいいのだ。

 千佳は、「どうして、私たちなんですか? 高校生なのに……」震える声で質問を投げかけた。
 もっともな質問だ。真斗も疑問に思っていた。
 千佳は撃たれなかった。宇江田が「思ったとおりだ」と返してくる。
「ユーたちの疑問は無理もない。通常のプログラムの対象となるのは、中学三年生のクラスだからな。しかし、それだけだと思うのは浅はかな話だ。プログラムの趣旨は、戦略上必要なデータ取り。戦力となる若者に限定されているが、それが中学三年生でなければならないとするのは、あまりにも不合理……」
 ぺらぺらとよく話す。
 なおも続く宇江田の話を要略すると、つまるところは特殊プログラムなのだろう。
 ぶどうヶ丘高校が選ばれたのは、どうやらプログラム優勝者が多く在籍しているからのようだ。無作為抽出が行われ、一年二組が選ばれたらしい。

 結局、何が思ったとおりなのかも分からなかった。
 上位に立っていることをアピールするために、意味もなく言っただけなのだろう。

 真斗は、プログラムをレースに見立てトトカルチョをしている者たちの話を聞いたことがあった。
 高校生にも関わらず選ばれてしまったのは、優勝者が在籍しているぶどうヶ丘高校でプログラムを開催すれば、刺激的だからに違いない。
 しかし、今更何を言っても仕方がない。
 理由には疑問や不満もあるが、選ばれた以上腹をくくるしかないのだ。

 黒板には、模造紙の地図が貼られていた。
 会場は銛王町といい、詳しい所在地は秘密にされた。通常は、プログラムは選出された学校が材する都道府県内で行われるはずだ。これも、特例ということなのだろうか。
 北部は銛王山から伸びる雑木林で覆われており、東部は海に面している。
 東部の海岸から中央部の湖、銛王山の東のすそ野にかけては、大規模なキャンプ場になっているということだった。
 人家は南部の市街地に集中しているが、北部にも鄙びた集落があるということだった。またプログラム本部は会場の外にあるということだ。

 真斗は、智樹 に向け小さく呟いた。
「北は診療所、南は銛王駅」
「えっ?」
 智樹が反問する。
「可能なら、そこで待ち合わせよう。会場の北部で目が覚めたら、診療所。南の場合は、市街地の駅だ」
 目立つ建物は避けたかったが、地図に記号や注釈が載っている施設の中から選ぶしかかなった。
 どうやら説明の邪魔にならない程度の私語は許されるようだ。
 専守防衛軍の兵士がちらりと真斗を見やってきたが、何もされなかった。前回は説明時に私語が許されなかったため、合流できず、単独行動を取るものが多かった。そのせいか、決戦までに時間がかかった。
 ……今回は、展開が早いのかもしれない。
 真斗はふっと息をついた。

 真斗の誘いに、「ああ……」智樹は呟き返した。青ざめていた顔色に朱がさす。
 そして、「ありがとう」と震える声で続けた。
「え?」
 今度は真斗が反問する番だった。
「ありがとう、信用してくれて」
 智樹は、涙目になっていた。
 とにかく一人でいるのは恐ろしいし、誰かと一緒にいるのなら、同室で気心も知れている智樹しかいない。
 人のよい智樹なら、寝首をかかれることもないだろう。
 そんな理由で誘っただけだったので、少し後ろ暗かった。

 ここで、宇江田教官が、くっくと笑い、「さて、ここからが重要だ。今回の特殊プログラムの最大の特徴を説明する。しっかりと聞くんだぞ」と念を押すように言った。

 いったい……。
 戸惑い顔の真斗たちを尻目に、宇江田が説明を続けた。



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バトル×2
陣内真斗
私立ぶどうヶ丘高校一年。プログラム優勝者であることを隠している。