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OBR2 −蘇生−  


004  2004年9月30日17時00分


<陣内真斗>


「……ねぇ、ここ、どこ?」
 朦朧とした意識の中、真斗 は不安げな女の声を聞いた。
「さぁ?」
 斜め上から別の女の声が降ってくる。
 今度はやけに素っ気無い冷めた口調だった。
 少しの沈黙の後、「陣内くん、起きて、起きてよ」最初に聞こえた声が近づき、左腕を誰かに触られた。反射的にそれを振り払う。
 見開いた瞳におぼろげに映ったのは、薄汚れた板天井だった。
 切れかけた蛍光灯がチカチカと点滅している。起き上がると、ひざ立ちをした井上菜摘 がほっとした表情で、「はい」と真斗の眼鏡を差し出してきた。
「床に、落ちてた」
 菜摘が震える声を押し出す。
「ねぇ、ここどこ?」
 いま起きたばかりの男にする質問ではない。
 真斗は苦笑し、菜摘の質問を無視した。そして、菜摘から受け取った眼鏡をかけ、あたりを見渡す。

 そこは、古びた木造校舎の一室だった。
 寝かされていた板張りの床。教壇があり、色あせた黒板があり、壁の上部にはスピーカーが設置されている。
 窓には鉄板が打ち付けられていたので外が見えず、昼夜の区別がつかない。
 壁に掛けられた時計を見ると、時計の針は5時をさしていた。丸一日寝ていたとは思えないので、おそらく夕方の17時なのだろう。

 迷彩模様の戦闘服を着た男が、教室の前後に三人ずつ立っていた。
 同じ迷彩のかかったヘルメットを被り、肩からライフルを吊っている。
 また、本来教室の大部分を占領しているはずの机と椅子がなかった。始めからなかったのか、暴動が起きたときに武器として使われることを恐れられて他所へよけられたのか。
 教室のあちこちに、クラスメイトたちが倒れていた。
 茶色地の制服を着込んでいる者と私服姿の者が半分半分。数人は起き上がり床に座っていた。立っている者はいない。朝礼では見かけなかった和野美月の姿も見える。
 そして、その全員につけられた銀色の首輪。
 確かめると、真斗の首にも同じものがつけられていた。

 これも昔取った杵柄と言ってよいのだろうか、真斗は事態を理解していた。
 プログラム……。
 心の中で呟く。
 そう。やはりこの状況は、一年前にプログラムに巻き込まれたときと同じだった。
 だけど、プログラムの対象となるのは、中学三年生のクラスのはずなのに……。いったいどうして……。


「これって、もしかして……」
 二番目に聞こえた声の持ち主が、妙に落ち着いた口調で言った。
 鮎川霧子あゆかわ・きりこだった。艶のある黒髪を首筋のあたりで一本にまとめている。
 ぶどうヶ丘高校の校則は緩く、華美にならない程度の染色は許されているので、女子生徒の多くは茶系に髪を染めていた。その中で黒髪を通す彼女はそれだけでも目立つ。
 さらに、学業運動ともに秀で、きりりとあがった切れ長の瞳が印象的な美しい容貌もしており、ことさらに存在感を際立たせていた。
 ひきしまった口元。凛とした雰囲気を持った女で、言うこともきつい。
 菜摘とは寮が同室だった。
 大人しい菜摘は、しっかり者の霧子を普段から何かと頼りにしている。いまも霧子のそばに引っ付いていた。
「ああ、たぶんそうだ」
 言ってから顔をしかめる。
 なんで、二度も……。
 これは間違いなくプログラムのシチュエーションだった。


 突然、教室の入り口が開き、数人の男が入ってきた。
 先頭の男は、グレーのスラックスに、仕立ての良さそうなシャツを着ていた。
 シャツの胸ポケットには、政府関係者であることを示す桃色のバッジがつけられている。彫りの深い浅黒い顔をしており、見上げるような高い身長の持ち主だった。
 おそらく彼が担当教官なのだろう。
 前回のプログラムは、矢間田奈緒子やまだ・なおこと名乗った長い黒髪の女が担当教官だった。プログラムの説明の途中途中に、安っぽいマジックを見せるトリッキーな女だった。

 彼と目が合った。
 男は、指先を上にむけると、ちちちと左右に振った。そして、左腕は右腹に回し、その上に右腕を置き、右手の人差し指と親指であごをさすった。口の端が歪み、にやり笑う。
 尊大な雰囲気の感じられる笑いだった。
 ああ、今度のもろくなヤツじゃなさそうだ……。
 真斗は、ため息をついたあと、笑いを返してやった。
 男は驚き、ちょっと目をむいて見せた。つまらない逆襲だったが、これからのことを思い重く水を含んだ心が、少しだけ軽くなった。



 男は、宇江田次郎うえだ・じろうと名乗った。嘘か真か、有名大学の教授職も持っているらしい。いったい、どういう経緯でプログラム担当官の任を受けたのか……。
 宇江田は、左右に二人の副官を従えていた。一人は若く見目のいい男で、金色に染めた髪をオールバックにしている。もう一人は宇江田と同じ年配の男で、分かりやすいカツラをつけていた。
「ね、これ、何?」
 真斗の隣に座りこんでいる城井智樹が、不安そうな声を絞り出す。
「プログラム、だ」
 真斗が答えると、智樹は絶句した。
 顔色が蒼白になる。
 近くにいる菜摘、鷹取千佳 あたりも同じ顔色をしていた。

 宇江田がプログラムの説明を続けるのを聞き取りながら、真斗は注意深くクラスメイトたちの様子を伺った。
 誰が安全で誰が危険か、見極める必要があった。
 経験者である真斗は、殺し合いが始まることを確信している。
 一方、智樹らは信じられない様子だ。
 ……オレも、一年前はそうだった。
 前のプログラムでは初期に危険な者と組み、危うい目にあった。今度は、同じ失敗は許されない。前はそれでも生き延びられたが、今度は簡単に死んでしまうかもしれない。
 ゲームに乗る乗らないはまた別の問題として、誰かと組んでおく必要はあった。
 プログラムは体力戦だ。休む際の見張りは必要だし、もし戦闘となった場合、複数でいたほうが有利だ。
 もちろん、組んだ者に寝首をかかれる危険性もあるのだが……。

 比較的落ち着いて見えるのは、鮎川霧子、木ノ島俊介だった。
 霧子の様子は普段とさほど変わらない。
 俊介は若干青ざめているが、ぎゅっと唇をかみ締め恐怖に耐えているように感じた。
 最近自分に不自然に近寄ってきていた彼の動向を思い出し、真斗は顔をしかめた。
 プログラム優勝者であることは、誰かとグループを組む際に不利に働くだろう。
 誰だって、人殺しと一緒にはいたくないはずだ。
 一人殺せば、二人も三人も一緒。一度は思い切り、最後の一人となることを選らんだ者が信用されるはずもないだろう。真斗自身、優勝者と同行したいとは思えなかった。

 ぶどうヶ丘高校はプログラム優勝者を公表していないので、一クラスあたりいったい何人のプログラム経験者がいるのか、見当もつかなかった。
 クラスで、確実に優勝者だと分かっているのは、高熊修吾たかくま・しゅうごの一人だけだった。
 彼は日ごろから素行が悪く、きな臭い噂も多い。
 人を殺し、それをビデオに撮る、スナッフ・ビデオの製作販売にまで手を伸ばしているという話だった。
 噂というものは、オーバーに伝わるものだから、まさか本当に関わってはいないだろうが、近いことはしているのではないかと、真斗は思っていた。
 右のこめかみから頬にかけて、大きな切り傷があり、本人いわくプログラムの勲章だそうだ。
 彼は、教室の隅で、腕を組み宇江田教官を睨み付けていた。

 修吾は、プログラム優勝者であることを公言して憚らない。
 これは、本当の話らしかった。他のクラスメイトの親戚がたまたま彼と同郷で、その筋でわざわざ確かめていたから間違いはない。
 プログラム優勝者であることを隠そうともしない。
 それは、ひた隠しにしている真斗には信じられない感覚だった。
 修吾は、時折大きな声で自慢げに話す。その音声は、真斗には不快極まりないものだった。

 修吾のすぐそばに、彼と仲のいい堀田竜ほった・りゅう深沼ふかぬまアスマの姿が見えた。
 竜は大柄でがっしりとした体格。性格も修吾に近く、粗暴だった。
 アスマは、他の二人とは少し毛色が違う。華奢な体躯で、粗暴な雰囲気はないし言動もない。
 そんなアスマがどうして修吾らと行動をともにしているのか。
 それは、彼のぶどうヶ丘高校入学の動機が絡んでくる。
 アスマは、プログラム優勝者とかかわりを持ちたくて進学先をぶどうヶ丘高校にしたらしい。もともとは別の生徒と仲良くしていたのだが、修吾が優勝経験者だと分かると同時、彼に擦り寄って行った。
 真斗にとっては、優勝者であることを公言する修吾よりもさらに理解できない相手である。
 とにかく、この三人は要注意だ。近寄るわけにはいかない。

 後は、クラス委員長の牧村沙都美まきむら・さとみだろうか。
 彼女には、「プログラム優勝者ではないか?」という噂が立ったことがあった。真偽のほどは分からないが、近づかない方が賢明だ。
 クラスのみなもプログラム優勝者が気になるのだろう。修吾と沙都美の顔色をちらちらとうかがっていた。
 沙都美はどこか思いつめたような表情をしていた。
 そういえば、彼女の寮室は個室だ。単に相部屋を嫌ったのか、それとも……。
 沙都美の様子をうかがいながら、真斗はほっと息をついた。
 ああ、バレてなくて、よかった。
 知る限りでは、自分に彼女のような噂は出たことがない。……木ノ島俊介の存在は気にかかるが。

  

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バトル×2
陣内真斗
私立ぶどうヶ丘高校一年。プログラム優勝者であることを隠している。