OBR2 −蘇生−  


043  2004年10月01日11時00分


<矢坂彩華>

 
 美月の親は地方の地主で、美月は不自由なくわがままに育てられた娘だった。
 そして、欲しいものはなんでも持っているくせに、人のものを欲しがる女だった。

 襲ってきた美月が「ユウくん、ユウくん」と呪文のように呼んでいたホストの名前。
 元はといえば、ユウは、彩華の馴染みのホストだった。
 ホストといってもバイト感覚。首にならない程度、遊ぶ金に不自由しない程度に稼げればいいやというスタンスで、ホストにしてはガツガツしたところがなく、無茶な金使いを求めてこなかったので、彩華としても安心して通えた。
 そこに、美月が割り込んできた。
 自由に使える親持ちのカードをからいくらでも金を引き出せる美月の金遣いは荒かった。
 店としてもユウとしても、彩華などよりもよっぽど金払いのいい客を無碍にするはずもなかった。
 美月はおそらく、彩華が『持っていた』ホストが欲しかったのだろう。単にホスト通いをしたいだけなら、別に「ユウ」じゃなくてもよかったはずだ。
 美月はそんな女だった。
 死んでせいせいするとまでは思わないが……。
 
 少し会話がとまった。
 やがて智樹が意を決したように、「真斗は、どうなんだろう」と呟いた。
「陣内?」
「うん、真斗は俺を信頼してくれてるのかな。やっぱ、打算なのかな」
 返しに詰まっていると、「ほら、真斗と彩華って、似たタイプじゃん。だから、真斗の気持ちわかんないかな」寂しそうに言ってきた。
「あんな男と一緒に扱って欲しくないけど、まぁ、信頼はしてるんじゃないの?」
 言った後、しっかり「打算はあるだろうけど、ね」と付け加えておく。

 とはいえ、その打算は、自分が美月に対して行ったものとは違うだろう。
 智樹なら自分を裏切らない。寝首をかかれることはない。身体能力が高く、戦力になる。
 信頼に基づく打算とでもいうべきか。
 見張りのグループわけにも、真斗の信頼は現われていた。
 グループは、基本的に真斗と木ノ島俊介、智樹と自分だ。智樹が困憊してるので、後半真斗が智樹の替わりに見張りをすることになっている。
 本来なら仲のいい智樹と真斗が組みそうなものだが、あえて分かれている。
 それは、自分と俊介が二人だけにならないようにしているのだろう。俊介が自分に取り込まれることを警戒しているに違いない。そして、それは逆に言えば、智樹への信頼の現われでもあった。
 智樹ならば、自分を裏切ることはないと思っているのだ。
 このあたりの話は、わざわざ真斗と智樹の結束を固めることもないのでしなかった。

「そか、そう見える? 真斗、俺のこと信頼してるように見える?」
 後の台詞は無視? と苦笑し、「まぁ、してるんじゃないの? でも、あの男をあまり信用しないほうがいいんじゃない? 基本的に自分本位でしょ、あいつ」釘を刺しておく。
「気に入ったとか言ってたじゃん」
 智樹が笑いを返す。
「あれは、取り入るための方便。あんな意地が悪くて、暗い男、全然タイプじゃない」
 手放しで酷評したつもりだったが、「彩華、やっぱ、真斗のこと気に入ったみたいだねぇ」と智樹が笑った。


「そんなことより……」
 自然を装い彼の後ろにまわり、軽く抱きしめる。
 智樹は、彩華の豊かな胸の感触を感じているはずだ。「……ね?」意図して息を首筋のあたりに吹きかけた。
 これに、智樹が真っ赤になり、「や、ちょっと」どもりを返す。
 早くも反応し強張っている彼の股間に手を伸ばし、「私と組まない?」提案する。
 このプログラムで生き残れるのは実質二人だ。色仕掛けでもなんでも、使えるものは使って、せいぜい生き残れる目を増やしておかなくちゃ。
「ね、あんな男よりも、私のほうが色々いい目見られるよ」
 しかし、智樹は彩華を押し返すと、「ごめん、ソレ、ありえないから。俺を信頼してくれた真斗を裏切るなんて、ありえないから」と言い切った。 
 先ほどからのこだわりといい、信頼という言葉に何か思い入れでもあるのだろうか。

「ったく、あんたたちは扱いにくいね」
 肩をすくめると、智樹があやふやに笑った。


   
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矢坂彩華
20歳。和野美月と遊び歩いていた。
『アドレナリンドライブ』
外傷を操作できる。散らすことも集めることもできる。