OBR2 −蘇生−  


040  2004年10月01日11時00分


<鮎川霧子>


 鮎川霧子は、気を失った優一郎のそばに膝を立てた秋里和 がふっと息をつくのをじっと見ていた。
 アスマとは極力距離をとっておきたく、和を間にはさんだ位置に立っている。
「生きてる?」
「たぶん……」
 脈を取った和が霧子の質問に答える。
 そういう気分だったのだろうか、アスマは刃物を使わず手近な石で殴りつけていたので、刺し傷とは違い、ダメージの度合いが分からなかった。

 崖下を覗くと、制服姿の女子生徒が二人横たわっている。
 野口志麻と村木春奈だ。霧子らは、彼女らと優一郎らの争いを、大方見ていた。
 優一郎が、巨大な景色を作る場面も見た。

 和が優一郎のかばんから指輪の説明書を取り出し、読みはじめた。
 読み終えるのを待って、求めると、説明書を渡してくれた。どうやら、フェイクを作り出す能力のようだ。優一郎の能力を理解したことで、先ほどの現象のからくりが分かった。 

 霧子が読んでいる間に、和が仲谷優一郎の指からそっと指輪を抜く。そして、自分の指輪をはずし、『ギャラリーフェイク』 に付け替えた。
「何を?」
 聞いたが、和はこれを無視し、能力を発動させた。
 目の前の空間、崖の上に、雑木林の風景、フェイクが現れる。
「こんな能力もあるのね……」
 あっけに取られた声で呟く。
「みたいだね」
 和は頷き、薄く眉を寄せた。
 その表情の変化に、「ん?」と怪訝な顔を見せると、「ヘタクソだな、と思って」和がぽりぽりと頭をかいた。
 たしかに一見して偽物と分かる風景だった。木々に厚みはなく、奥行きも中途半端だ。
 先ほどみた優一郎のフェイクとは雲泥の差だった。

「仲谷、やっぱうまいなぁ」
 和が穏やかな声を落とす。
「あれ、秋里のほうが上手いんじゃなかったっけ」
 美術教諭が和の絵の才能に惚れ込んでいるという話を、井上菜摘(真斗が殺害)から聞いたことがあった。
 和は、何かのコンクールで賞もとっているはずだった。
「ああ、あの馬鹿」
 和にしては乱暴な言葉を吐く。
「あの人、何も分かってないもの」
 それは、仲谷優一郎にも才があるということだろうか。
「仲谷の絵、凄く精密なんだ。あの先生、ただ正確なだけだな、なんて言ってたけど、仲谷もその批評真に受けてたけど、正確に描くことって難しいんだよ。……きっと、仲谷、これまでに、いっぱい絵描いてきたはずなんだ。あの技術を、あの精密な描写力を身に着けるまでに、いっぱいいっぱい描いてきたはずなんだ。いっぱいいっぱい努力してきたはずなんだ。……それも、才能だよね」

 たしかに、優一郎が作り出したフェイクの景色が目に焼きついて離れない。
 野口志麻を騙した、優一郎の『作品』。それは、見事なものだった。

 彼の中学時代の話は多少聞いていた。
 ひどい虐めにあっていたらしい。当時の経験により、優一郎はもともとの内気に磨きをかけ、自信というものをそぎ落とされたに違いない。
 プログラムなどなかったら、その才能を花開させる日が来ていたのだろうか。自信を持って生きていける日が来ていたのだろうか。
 そんなことを考えていると、
「和ちゃん、ごめん……」
 若干の不服を滲ませながら、アスマが和に謝った。
 和と優一郎は部活が一緒で親しくしていた。和の友人を傷つけたことを謝っているのだろう。
「ううん、いいよ。事前にとめられなかった僕も悪いもの。……でも、もう僕の友達を怪我させないでよ」
 きつい口調の和に、アスマが青ざめた顔で頷いた。


   
−野口志麻・村木春奈死亡 09/17−


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鮎川霧子
真斗と親しくしていたが、実は恨んでいた様子。真斗が前のプログラムで殺した少年と関係があるらしい。