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OBR2 −蘇生−  


017  2004年10月01日03時00分


<牧村沙都美>


 周囲を見渡し、牧村沙都美はふっと息をついた。軽くウェーブを描く肩までの髪をなでつけ、黒縁眼鏡をはずし、スカートの裾でレンズを磨く。
 その手が小刻みに震えていることが、忌々しかった。
 学校の教室ほどの広さの大広間、そのあちこちに複数の生徒が力なく座り込んでいる。それぞれの間には微妙な距離があり、沙都美はこのグループの団結力のなさを表しているように感じた。
 沙都美たちがいるのは、キャンプ場の管理棟 (Bの4エリア)だ。
 管理棟とはいえ、周囲の雰囲気にあわせたのか、丸太を積み上げたような建物になっており、一階の大広間にも本物の暖炉があった。
 電気が止められているため、電灯をつけることはできないが、広間の窓から差し込む月の光が明かりになっていた。
 売店も併設されているので倉庫には食料品のストックがあり、貸し出し用のシーツや毛布もある。
 立て篭もるにはあつらえ向きの施設だった。

 この管理棟にいるのは、五人。うち三人がもともと親しくしていた仲間だった。
 肥満体で、グループのリーダーだった鷹取千佳 は暖炉の前で泣きじゃくっており、とてもこの場を仕切れそうにない。
 千佳とは対照的に小柄で華奢な佐倉舞さくら・まい(新出) は、木製のテーブルに腰掛けて足をぶらぶらさせていた。
 彼女たち二人と沙都美、この場にはいない井上菜摘(陣内真斗が殺害)を加えた四人が、クラスの中心的存在だ。
 木作りの出窓のそばで外の様子を伺っているのは、仲谷優一郎
 彼のふっくらとした横顔からも緊張感がうかがえた。
 また説明時にガラス化された腕はそのままだった。
 沙都美、鷹取千佳、佐倉舞、仲谷優一郎、そして、広間の隅でぶつぶつと何事かを呟いている野口志麻(新出)
 これで、この管理棟にいるメンバー全員だ。

 もともとは千佳たちだけで立て篭もる予定だったのだが、現地についてみたら優一郎と志麻がおり、なし崩しに合流することになってしまった。
 普段の優一郎と志麻には接点がない。
 おそらくは二人も偶然この管理棟に立ち寄ったというところだろう。
 志麻には、寮が同室の村木春奈(新出)という友人がいる。後から村木さんも来るの? と訊いたが、志麻は答えなかった。
 呟いているのは春奈の名前で、いささか気持ち悪い。
 当初はそれなりに話していたのだが、次第に皆口数少なくなり、すでに一時間ほど会話らしい会話もない。

 沙都美はもともとは制服姿だったが、上着を脱ぎ、代わりにこのキャンプ場のスタッフ用のパーカーを羽織っていた。
 佐倉舞や鷹取千佳も同じ格好だ。
 アスマに首筋を切られ、大量の血をポンプのように噴き上げた高熊修吾。沙都美たちは、その血を被ってしまっていた。
 ただ、会場の電気ガスは止められているものの、幸い水道は無事だったので、身体についた血はタオルに水を含ませふき取ることが出来た。
 しかし、血糊のついた衣服はどうしようもなく、着替える他なかったのだ。
 睡眠ガスに落ちる前に見てしまった修吾の死に顔を思いだし、ぶるると身体を振るわせる。
 クラスメイトで一番活力に溢れていたのが修吾だった。
 間違いなく優勝候補だと思われた彼が、まさかプログラム開始前に死亡するとは思っても見なかった。
 しかも、殺したのは、彼の仲間だった深沼アスマだ。

 深沼か……。
 アスマの目じりの下がる笑顔を思い浮かべ、沙都美は眉を寄せる。
 女の子同士の他愛も無い会話、クラスメイト男子の品評会で、アスマのことも何度かあがったことがある。
 ……両極端だった。
 舞や菜摘は、笑顔が可愛い、人が良さそうと言っていたが、千佳と沙都美は、アスマのことを薄気味悪く感じていた。
 特に沙都美は、アスマの笑顔に違和感を持っていた。
 舞や菜摘が可愛いという笑顔が、沙都美には禍々しいものに映っていた。
 だから、アスマが修吾を殺したとき、沙都美は驚かなかった。やはり、と思ったぐらいだった。
 むしろ意外だったのは、堀田竜がアスマを補助したことだった。竜はアスマよりも修吾と親しいはずだったのだが……。
 

「菜摘……、なんで来なかったんだろ」
 沙都美の思考をさえぎるように、佐倉舞がぽつりと言った。
 同時に首を軽く振ったので、赤茶けたショートカットの髪がさらりと揺れる。上向き加減の鼻に、白くつるりとした頬、二重の大きな瞳、小柄な身体。菜摘ほどではないが、まずまず可愛らしい容貌をしている。
 これに答えず、天井の木目を見やり、沙都美は思う。
 井上菜摘。彼女は来なかった。
 彼女はこの状況を予測していたのだろうか。それとも……。それとも、来るまでに誰かに殺されてしまったのだろうか。
 沙都美は菜摘の死に顔を想像し、ぶるると肩を震わせた。
 ここで、沙都美は陣内真斗のことを思い浮かべた。
 もしかして……、陣内と一緒にいるのかな?

 菜摘が陣内真斗のことを好きだと言い出したときは驚いた。
 真斗は決して見目は悪くないが、神経質そうな上がり気味の双眸が印象的な大人びた少年だった。暗い、と言ってもよいのかもしれない。「毎日、つまらなそうだな」真斗を見、沙都美はそう思っていたものだ。
 素直で女の子らしい性格の菜摘が好む相手にはおよそ思えなかった。
 彼女と合うのは、むしろ、真斗の友人の城井智樹だろう。彼の嫌味なまでの健全さは、菜摘のようなお姫様タイプの女の子には似合いだった。
 だけど、彼女は真斗に恋をした。
 大人しい菜摘にしては積極的にラブコールを送っていたが、菜摘のような可愛らしい女の子に好かれて何が不満だったのか、真斗はのらりくらりとかわしていた。
 智樹に確かめたところ、真斗は現在誰とも付き合っていないらしいし、誰かに片思いをしているような様子もないらしい。
 ならば、菜摘と付き合ってもいいようなものだが……。 

 まぁ、こなかった者のことをあれこれ考えても仕方がない。
 沙都美はドライに気持ちを切り替えた。
 千佳の巨体をちらりと見る。
 この場の誰よりも恐怖が見えるのは彼女だった。リーダーとして仕切っている普段の姿は見る影もなかった。今の彼女にこのグループのリーダーを任せるのは、酷というものだろう。
 しかし、主導権は仲間三人のうちの誰かが握っておくべきだと沙都美は考えた。優一郎や志麻にこのグループを仕切られるのは得策でない。
 となると……、自分しかいないか。
 意を決し、沙都美は立ち上がった。嗚咽を漏らし肩を震わせて泣いている千佳のそばにより、その背に触れる。
 千佳は大げさなほどにびくりと肩をあげ、「な、なにっ」その手を強く払いのけた。
 いささか傷ついたのだが、極力顔に出さないようにし、怯える彼女を落ち着かせるように、できるだけやわらかい口調で 「毛布、取ってくるね。倉庫にたぶん非常食とかもあるだろうから、それも取ってくる」と言った。

 あからさまに仕切ってはいけない。要所要所で適切な働きをし、自然にリーダーとして認められるようにしなくては。
 身体に血が巡るのを感じた。
 いつぶりだろう、この感覚は?
 もともと沙都美は輪の中心になることを好む性質だった。小学校中学校と常にクラスの中心にいた。
 当然、ぶどうヶ丘高校に入学したときもいつものポジションを取ろうとした。運動神経も頭も良く社交的な彼女にとってそれは難しい作業ではなかった。
 クラス委員長にも選ばれ、名実ともにクラスの中心人物の座を取ることができた。
 しかし、その矢先、プログラム優勝者ではないかという噂が立ち、クラスから孤立してしまった。

 疑われるようなことをやった覚えも言った覚えもない。どうやらクラスでただ一人、寮室が個室であったことが災いしたようだった。
 個室を選ぶ生徒は決して少なくない。
 たまたま沙都美のクラスでは自分一人だっただけなのだが、悪目立ちしてしまったのだろう、と沙都美は考えている。
 それまでグループで生きてきた沙都美だけに、プライドの高い沙都美だけに、クラスで孤立してしまったことはいささか堪えた。
 だから、沙都美に替わってクラスの中心になっていた鷹取千佳に声をかけられたときは、嬉しかった。

 志麻はどちらかといえば気の強い質だし、優一郎は男だからと余計なことを考えてリーダーを取ろうとするかもしれない。
 先手を打っておく必要があった。
 とにかく主導権を握っておき、千佳が平心を取り戻したら彼女にリーダーを渡せばいい。
 苦しいときに助けてもらった恩を沙都美は忘れていなかった。
 私は千佳が元気になるまでのつなぎのリーダーだ、と自分に言い含めながら、テーブルの上に置いてあった鍵の束を取り、大広間のドアノブを握る。
 と、これを横目で見ていた佐倉舞が「手伝うよ」と立ち上がった。
 一瞬迷ったが、彼女はもう沙都美の後ろをついてきていたので、仕方なく一緒に大広間を出た
    

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牧村沙都美 

プログラム優勝者ではないかと噂になったことがある。