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OBR2 −蘇生−  


015  2004年10月01日03時00分


<鮎川霧子>


 陣内真斗が井上菜摘を殺したその頃、鮎川霧子銛王駅 にいた。
 駅は高架の上にあり、都合のよいことに上り口が一箇所だけだった。
 真斗と城井智樹が待ち合わせるのは駅舎になろうだろうとあたりをつけ、物陰に隠れ改札口に続く階段を見張りだしてから、すでに数時間がたっている。
 艶のある黒髪を首筋のあたりで一本にまとめた髪型、きりりとあがった切れ長の瞳、通った鼻筋、意志の強さを表すひきしまった口元。
 全体に凛とした雰囲気を漂わせた美しい少女だ。
 霧子は身体を少しずらし、制服の上着のポケットから一枚の写真を取り出した。
 写っているのは、霧子と同年代の少年だ。
「……」
 大事な人の、大切な人の名前を呼ぶ。もうこの世にはいない人の名前を。
 ……恨みを果たさなくてはいけない。あの人の無念を晴らさなくてはいけない。
「陣内、真斗」
 次いで、殺すべき相手の名前を呼んだ。あの人を殺してのうのうと生きている彼の名前を。

 プログラム説明時、真斗と智樹が集合場所を話し合っていたとき、霧子は耳をそばだてていた。
 彼らは配置場所が北なら診療所、南ならば銛王駅に集まろうと言ってた。
 霧子自身が南よりに配置されたので、とりあえず銛王駅に来てみたのだが、プログラム開始から3時間経っても、二人の姿は見えなかった。
 確率5割をはずしてしまったのだろうか、それともまだ着いていないだけだろうか。
 彼らが診療所で合流していた場合、ぼやぼやしていると移動されてしまうかもしれない。そろそろ銛王駅を諦めて診療所に向かう必要があった。

 殺せるだろうか?
 ふと思うが、かぶりを振り、迷いを消しさる。
 このときのために、いずれ陣内真斗を殺すときのために、道場に通い身体を鍛えてきたのだ。反吐を吐くような思いに堪えながら、彼に近づき偽りの親交を深めていたのだ。
 ずっと陣内真斗を殺したいと思ってきた。
 だが、無計画に殺すわけにもいかなかった。彼に殺せば、当然のことながら霧子は罪に問われる。
 実のところを言えば、霧子は日ごろから強く生を望んではいない。
 死刑台に上ることと陣内真斗への恨みを晴らすこと、天秤皿は後者に傾く。しかし、それでは真斗と同じところに落ちるだけだ。

 プログラムは絶好の機会だった。合法的に彼を殺すことが出来る。
 しかし、いざそのシチュエーションとなると尻込みしてしまう自分に霧子は気がついていた。また、出来れば陣内真斗以外のクラスメイトを殺したくなかった。
 もう一度頭を強く振る。
 迷ってはいけない。迷いは死に繋がる。彼はゲームに乗るだろう。一度ゲームに乗ったのだ。二度目がないとどうして言えよう。迷ったら、彼に負ける。
 あの人の怨みを、私は晴らさなくてはいけない。


 思索に気を取られていたのかもしれない。
「お、鮎川さんだ」
 声を聞くまで、霧子はその生徒の存在に気がつかなかった。
 振り向き、身構えるが、遅かった。
 そこにいたのは深沼アスマだった。右手にはすでに銃が握られており、霧子に狙いが定められている。
 中背、耳にかかる赤茶けた髪。一重の細目。アスマは微笑んでいた。嫌味なほどに穏やかで余裕のある笑み。優位な立場を自覚した笑みだ。
 そして、アスマの後ろにもう一人。
 それは秋里和あきさと・かず(新出) だった。
 和は、アスマよりも一回り小柄なので、後ろに控えているかのように見える。

 下唇を噛み、目の前の二人組みを睨みつける。
 これに、「いやだなぁ、そんなに怖い顔しないでよ」やけに軽い口調でアスマが返した。そして、クスクスといたずらっ子のような笑いを続ける。
 笑うとアスマの目は糸のように細くなり、口元から八重歯が覗く。
 唖然とする。
 ……笑った。こいつ、笑った。このいつ死ぬかもしれない状況で。クラスメイトに銃をつきつけて。
 背筋のあたりがひやっとした。
 元々このアスマには違和感を持っていた。
 そもそも、プログラム優勝者と触れ合いたくて入学したという動機が理解できないし、公言どおり高熊修吾(アスマが殺害)とつるんでいた心境も分からない。
 また、普段はどちらかといえば大人しく見えた彼の変貌振りに驚かされた。

 じりじりと下がり、両手を後ろ手に回す。スカートのベルトに差し込んでいた支給武器の小刀の柄をぎゅっと握り、その存在を確かめた。
 と、その手が空を切った。
「えっ」
 短く切った疑問符。
 それに答えるかのように、「危ないなぁ。こんな物騒なもの持ち出さないでよ」アスマの鈴を転がしたような笑い声がした。
 見ると、その手には小刀が握られている。今の今まで自分が握っていたはずの小刀が。 
 思わず後ろを振りむく。しかし、そこには何もない空間があるだけだ。
 アスマは自分と対面しているし、その距離は5メートルほどある。秋里和はアスマの後ろだ。普通ならば小刀を取られるわけがないのだ。ありえない話だったが、理由は分かった。
 ……指輪だ。
 正確な能力のほどは分からないが、指輪の能力を使ったに違いない。
 
「これ、だーれ?」
 いつのまにか写真も取りあげられていた。写真を見ながらアスマが訊いてくる。
「返して!」
 手を伸ばすが、差し向けられた銃口に気圧された。
「城井……。いや、似てるけど違うねぇ。……鮎川さんの大事な人? 鮎川さんは、この人のために、頑張っちゃったりするの? クラスメイトを殺したりするの?」
 畳み掛けるような詰問だった。しかし、答えを求めている風ではなかった。頬が赤く染まり、高揚していることがよくわかる。なんだか楽しそうだった。
 決定的な違和感。
 なんなんだ、こいつは?

 ……ああ、そういえば、こいつ、高熊を殺したんだ。
 霧子は、アスマが高熊修吾を殺す場面を見ていた。『僕、一度神様になってみたかったんだ』そのときにアスマが残した台詞を思い出す。これも不可解だった。
「あんた、高熊を殺したね?」
「うん。修吾にはもう飽きちゃってたからねぇ」あっさりとアスマが返す。
 飽きる?
 話せば話すほど違和感が増す。
「鮎川さん、怖がらないね」
 唐突にアスマが言った。
「え?」
「こんなとき、もっと怖がるもんでしょ」
 それは、霧子が「いつ死んでもいい」と思いながら生きてきたからだろう。あの人に会って少しは生きる活力を得たが、あの人が死んでしまってからは、前と同じような生活に戻っていた。
 ……少なからず生命をたぎらせることができるのは、陣内真斗を憎く思うときだけだった。

 と、それまで一言も発していなかった秋里和が上ずった口調で言った。
「ねぇ! 鮎川さんって、プログラム優勝者ってほんと?」
 事実ではないし、そんな噂が立った覚えもなかった。
「いったい、何を……」
「そんな噂を聞いたことがあるんだけど、ほんと?」
 繰り返される和の言葉。和は中学1,2年生と言っても通りそうな幼い顔立ちをしている。その童顔に緊張感が見て取れた。少なくとも彼は普通の人間のようだ。

「へぇ」
 見ると、アスマの表情が変わっていた。双眸がきらきらと輝いている。口元に笑みが浮かび、八重歯がまた覗いた。
「ほんとに?」
 アスマの疑問にかぶせるように、和が「そうなんだよね?」言う。和は真剣な目をしていた。そこに見えるのは恐怖ではない。霧子は、和の心の声を聞いたような気がした。
 ……そうか。
 唇を舐め、かすれ気味の声を無理に押し出し、嘘をつく。
 プログラム優勝者だと、憎らしい陣内真斗と同類なのだと嘘をつくのには、少なからず葛藤があった。手をぎゅっと握り締める。手のひらには爪の痕がついたことだろう。
「……ああ、そうだよ」
 アスマの表情がさらに明るくなった。
「ほんとに?」
 黙ってこくりと頷くと、「ねぇ、鮎川さん、僕たちと組まない?」アスマの歓喜に満ちた声が返ってきた。

    

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鮎川霧子
真斗に殺された井上菜摘と同室。プログラム前は真斗とそれなりに親しくしていたが、ルール説明のときに真斗を睨みつけた。