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OBR2 −蘇生−  


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001 プロローグ  2004年9月30日06時30分


<陣内真斗>


 島は、クラスメイトたちの死体で埋め尽くされていた。
 陣内真斗じんない・まさと はそれを空の上から見下ろしている。
 ちょっといいなと思っていたあの子が、左側頭部を破壊されている。嫌味であまりそりが合わなかったクラス委員長の彼が、首を絞められて死んでいる。
 胸を撃たれている。喉を切り裂かれている。池に浮かんでいる。腕をもぎ取られている。
 素行が悪かった彼彼女たち、いつも教室の隅で笑いあっていた彼女たち。
 放課後何度か遊びに行った者もいたし、挨拶程度の会話しか交わしたことがない者もいた。一度も話したことがなかった者もいた。
 みな、様々な部位に傷を負い、血を流し死んでいる。
 流れる紅い血、血、血。むせ返るような血の匂い。

 と、浮かんでいた身体が垂直に落ち始めた。
 ひっ。
 短く切った自分の悲鳴を空に残し、落ちていく身体。
 うわぁぁぁっ。
 目を瞑り、開いたら、真斗は闇の中にいた。一メートル先も見えない漆黒の闇。
 背後に誰かの気配がする。背中に冷たいものが走り、全身が総毛だった。
 後ろから聞こえている静かな呼吸音が、闇を支配する。誰が後ろにいるのか、何が後ろにいるのか。見たくもなかったが、耐え切れなかった。
 おそるおそる首を動かし振り返る。
 すると、闇の中に、室田高市が浮かび上がって見えた。
 いや、高市だった『もの』が見えた。額にナイフが突き刺さり、そこから血が一筋流れ落ちている。見開かれた瞳は白目をむいている。ぽかんとあけた口からも血がこぼれていた。

 高市は黙って真斗を指差した。
 そして、低くひしゃがれた声を押し出してきた。
「お前が……、俺を殺した」
 腹の底から叫び声をあげた。違う、違うと、頭を振る。
 しかし、事実は真斗から逃げ出してはくれない。
 ……そう、オレはクラスメイトたちを殺した。親友だった高市を殺した。でもっ、でもっ、そうしなきゃ、生き残れなかったんだ! 死ぬのが怖かったんだっ。許して、お願いだから、許して。お願いだから!



 ふいに、視界が明るくなった。
 二段ベッドの上段の板張りがぼんやりと見える。
 がばっと起き上がると、横で「わっ」と誰かの驚く声がした。
 陣内真斗じんない・まさとは低血圧の頭を振り、瞬きを数度繰り返してから、無骨な黒縁メガネをベッドの脇から取り上げ、かけた。
 クリアになった視界、同室の城井智樹しろい・ともき がベッドの横で大きな瞳を見開いている。
 二段ベッドと机二つが大部分を占める八畳間の学生寮
 三階建ての三階角部屋南向きという、恵まれすぎたロケーションが呼び込む秋口の朝陽が煩わしい。
 なお荒い息を弾ませながら、向かいの壁に掛けられた時計を見る。
 2004年09月30日午前06時30分。
 寮と学校の校舎は目と鼻の先、まだまだ惰眠をむさぼっていていい時間だった。

「びっくりしたー。……起こしちゃった? ごめんな」
 朝っぱらから張りのある声で智樹が言う。着替える途中だったらしい、智樹は下半身はトランクス一枚、上半身は裸という姿だった。程よく鍛えられたすらりとした長身。
「年寄りは、朝が早い」
 真斗が恨みがましい口調で言うと、「何それ、たった二つしか変わらないじゃんかよっ」智樹はほほを膨れて見せた。
 智樹は二つ年上の18歳だった。
 他の高校をドロップアウトした後、フリーアルバイターをしていたが、一念発起してぶどうヶ丘高校に入りなおしたのだという。
 明るい性格で人付き合いがよく、勉強もそこそこできる。また、サッカー部とバスケットボール部を掛け持っているスポーツマンでもある。
 そんな彼がどうして前の高校をドロップアウトしたのか、興味はなくはないが、聞いたことはなかった。
 それは、ぶどうヶ丘高校の生徒たちに流れる暗黙の了解でもあった。
 皆それぞれ脛に傷のある身、過去の話はしたい者だけがすればいい。……もちろん、真斗もプログラム優勝者であることは誰にも言っていない。

 着替えを続ける智樹に「今日はバスケ部?」と声を掛ける。
「ううん、今日は天気がいいからサッカー」
「健康的なことで」
 悪夢から救ってくれたとも言えるのが、いまは眠かった。
 皮肉を込めた口調、しかし、智樹には届かなかったらしい。
「真斗もさ、も少し運動しなよー。体育は学科だし、部活やってないし。若いからって油断してるとおっさん体型になるよ」
「おっさんには言われたくないな」
「たっくもー、口が減らないんだからぁ」
 智樹は二つ年上のわりに、子供っぽい話し方をする。
 


 真斗たちが通う私立ぶどうヶ丘高校は、東京都武蔵野市に敷地を構えるフリースクールだ。
 生徒は、その自由な校風に惹かれて中学からそのままあがって来る者もいるが、智樹のように一度高校生活に失敗した者や、他校から編入してくる者、一度社会に出ていた者などが大半だった。
 だから、中には20代の高校一年生もいる。
 まぁ、いくつになっても勉学に励むのはいいことだ。
 口に出せば、智樹から「お前、いくつだよ」と突っ込まれそうな年寄りじみたことを考えながら、真斗は布団の中にもぐりこんだ。
 老成したとも冷めたともいえる思考や物言いが、真斗のキャラクターだ。

 ぶどうヶ丘高校にはさらに特徴的な点がある。
 それは、プログラム優勝者を積極的に受け入れているということだった。
 プログラム優勝者は、ゲーム終了後、他県に強制移動させられる。
 そこでひっそりと生きて行くわけだが、やはり死闘の悪影響は出る。精神を病み、医者にかかる者は少なくないし、当たり前の高校生活社会生活を送れない者も多い。
 立ち直るまでの数年間、家から外に出られないケースも多く、進学率の低さも問題となっている。
 そこで、政府に近いフリースクールが、その受け皿として選択された。
 プログラム優勝者を積極的に受け入れることで、そのスクールに落ちる補助金の額は飛躍的にあがる。だから、設備のわりに授業料も安かった。
 ぶどうヶ丘高校は全寮制だったが、寮費も低いものだ。
 また、カウンセリングルームなるものも設置され、専門のカウンセラーが常勤していた。
 これは、プログラム優勝者用に置かれたものではない。プログラムとは関係なく心に傷を負った者も多いので必要だったのだ。

 さらに、どの生徒がプログラム優勝者であるかは、洩れないようなシステムになっていた。
 もちろん学校側やカウンセラーはどの生徒が優勝者であるか把握していたが、当事者が自分で話さない限りは、他に生徒に知れることはない。
 寮には全室にバストイレがついているので、入浴時に外傷の残った肌を見られることもなかった。体育の授業は、実技と学科を選ぶことが出来た。部活動も自由参加。
 一応制服はあるが、私服を着ることも許されている。夏季も長袖で通すことは可能だった。
 冷房が効いているので、暑くてたまらないということもない。
 まぁ、顔面など隠しようのない場所に傷を負っている者もいたが、別の事情で傷跡を持っている生徒も中にはいるため、よほどの傷でなければ疑われるということもなかった。
 ……皆それぞれすねに傷のある身、過去の話はしたい者だけがすればいい。
 ここでも、その暗黙のルールが生きていた。
「あいつ、そうかな?」と言う話がそこここで起こるのは、仕方のないことだったが。


 親の立場からすれば、プログラム優勝者のいる学校に子どもを通わすことに不安もあるのだろう。
 しかし、ぶどうヶ丘高校の設備面は高級官僚の子息令嬢が通うような学校と比べても遜色なかったし、サポートも充実している。
 経営母体はいくつもの学校組織を運営しており、その面での信用もある。
 また、大学への進学率が高かった。
 多くのフリースクールでは、その自由さがたたり、またもともと抱えていた事情も原因となって、進学率以前に卒業率が低い。
 その中でぶどうヶ丘高校は進学校並みとはいかないものの、高い進学率を誇っていた。



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